買われる欲望1-2
部屋に入ると加藤は自分の上着をハンガーにかけ、椅子に腰掛けた。
「シャワー、浴びるかい?」
少しだけ優しいような照れくさそうな顔になった気がして、清子は含んだ微笑を浮かべて、はい、と頷いた。
加藤はネクタイを外しゆったりと煙草を燻らせた。
清子は加藤に背を向けガラス張りの浴室の中で、体が火照るまでシャワーを体に当てた。
自分のすらりと伸びた純白の四肢となめらかな女性の曲線を見つめる加藤の視線を期待しながら、女の昂ぶりを感じた。
部屋に戻ると、加藤は「じゃあ僕も失礼するね」と浴室へ消えた。
火照った清子の体を冷房の乾いた風が撫でる。
シャワーの音が心を打ち付ける。
これから起こる秘密の契約に淡い期待を抱きながらも、自分がただ女として買われるという汚らわしさに身を固くした。
加藤に体を撫でられるのだろうか。
加藤は冷たい仮面を外すのだろうか。
カタリ、と静かな音を立て浴室のガラスが開いた。
バスローブに身を包んだ加藤は神経質にシーツの皺を整え、ベッドの上で身を正してこう言い放った。
「今日、僕は君を金で買った。約束通り私情は挟まないこと。
君にしてもらうことは服を脱いで、セックスすることなく僕を気持ちよくさせてほしい。
いいね?」
加藤は淡々と契約条件を述べ、テーブルに対価を置いた。
清子は自分の中にあった淡い期待を悔いた。
屈辱と空虚を噛み締めながら「はい」と無表情で答えた。
男女関係を持たない売買関係で支配された情緒のない空間の中においては、清子の女としての魅力など意味を持たない。
「じゃあ、おいで」と加藤はビジネスライクに腕を広げた。
こくりと清子は頷き、必死に自分の情感を奮い立たせるように加藤に抱きつき、バスローブを剥ぎ取った。
はらり、と清子のバスローブがはだけた。
感情のない目でじっと見つめるだけの加藤に、清子はそっと、試すようにキスをする。何度も、何度も、次第に深く。
ただ返答するかのような加藤のキスに屈辱を感じながら、清子は嬲るように加藤の口に舌を入れた。
煙草と知らない男の香りに不快感を覚えながらも、この男を堕としたい一心で清子の舌は本人のそれとは違うほどに加藤を挑発した。
加藤を押し倒すようにそっと体を絡ませ、清子は息を弾ませた。
名残惜しそうに糸を引く唇。
顔を話すと冷たく、切り捨てるような深い目に捉えられた。
屈辱なのか、興奮なのか、歯がゆい熱情に支配され、清子の目は潤んだ。
この男に欲情されたい―
懇願するように加藤の太い首筋にそっと舌を這わせ、耳、胸板を熱い舌で撫で付けた。
加藤の弱みを探すように清子の細い指は加藤の背中を辿る。
清子の豊かな乳房の頂点はなんの悦びも教えられぬままに隆起し、加藤の体と不規則にツッ―と触れ合う。