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あやなくもへだてけるかな夜をかさね
【その他 官能小説】

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あやなくもへだてけるかな夜をかさね-1

グルグルグルグルグル…
回り続ける洗濯機をぼんやりと智子は見つめる。
夫の肌着、息子の靴下、娘の下着…そして、智子のランジェリーがネットの中に入って一緒に回っている。
シャボンの匂いと柔軟材の香り。
…多分これが幸せの香り…
智子は、“カタン”と音をたて、洗濯機の蓋を閉めた。
小さいけれど、紛れもない自分たち家族の城。
4LDKの建て売り住宅。
最寄り駅まで、バスで15分。
徒歩10分以内の範囲には、病院も大きなスーパーも公園も…息子の通う中学も娘の小学校もある新興住宅地。
自分たちには上等だ。
狭い廊下を、ガーガーと音をたてて掃除機を進める。
壁に掃除機を当てないよう気を配りながら。
この家を手に入れる為に、夫は一生懸命に働いた。
そして、手に入れた今もローンを返し続ける為に。
夫のどこに不足があろうか?
絵に描いたような真面目な男。
酒はたしなむ程度。煙草はやめた。
ギャンブルらしき事といえば、たまの休みに出かけるパチンコ程度。
それすらも、家族の為にお菓子やDVDソフトをたまに持ち帰る程度。
ほどほどの男。可も無く不可も無く。
息子が生まれ、娘が生まれ、家を手に入れた…その度に夫は小さくまとまっていったのでは無かろうか?
可も無く不可も無い男に。
『ピーピーピー』
洗濯終了の合図。
掃除機を止め、智子は脱衣所に向かった。
パシッ!パシッ!
皺を延ばして洗濯バサミで摘んでは干してゆく。
右を見ても左を見ても、よく似たような佇まいの家々が並んでいる。
…あの家では…この家でも…
取り留めもなく考えを浮かべようとする頭をフルフルと振り、智子は小さく微笑んだ。
…そう、羨む事も無い。余所の家もうちと同じ…
些細な違いを羨むほど、智子は若くは無い。
ベランダから見える余所の洗濯物とうちのベランダに干された洗濯物。
大きな違いがどこにあろうか?
洗濯物を干し終わり、同じ積み木箱の中の家々を眺める。
フと目を移した先に、小さな窓がいくつも並んだ建物。
独身者向けの1Kのマンション。
その窓の一つに干された真紅のランジェリー。
…フッ…
小さく息を吐き、たった今自分が干した洗濯物を見上げる。
クリーム色、ベージュ…機能重視。
自分のランジェリーに溜め息を吐いた。
…いつの頃からだろう?…
智子にもピンクや黒や純白のレースに飾られたそれを身に着けた時があったのだ。
乳房を持ち上げる事よりも、ヒップを上げて引き締める事よりも…自分をセクシーに美しく見せる為に心を砕いていた時代。
男性の目に写った自分を想像しながら、ランジェリーを選んでいた時代。
…クスッ、フフフ…
自分のランジェリーの隣に干された夫の下着。タグが覗く。
“U○IQLO”なんだか…笑えた。
そういえば、あれは何処にいってしまったのだろう?
智子と夫がまだ恋人同士だった頃、智子と夫の二人共が気に入っていたランジェリー。
クロッチ部分以外が総てレースの真っ白なパンティ。
パンティとペアの、やはり総レースのブラジャー。
レースから透ける乳房の頂点と淡い茂みが好きだと、夫は言った。
恋人同士が夫婦になり、やがて母になった智子は、あの下着を身に着ける事が無くなった。
安定と安心。
智子が手に入れたものは、智子からあの下着を奪っていったのか。
「何処いっちゃったんだろ…」
ベランダに揺れる洗濯物を見上げながら、智子は呟いた。


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