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あやなくもへだてけるかな夜をかさね
【その他 官能小説】

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あやなくもへだてけるかな夜をかさね-8

夫が寝室に消えて、しばらくして智子も寝室に入った。
あまり眠いわけでも無かったが、なんとなくテレビを見たり、パソコンをいじったりする気にはならなかった。
鏡に向かい化粧水の瓶を手に取る。
フと見上げた鏡の中に今夜写った女は、気のせいだろうか、穏やかな表情を見せていた。
智子は鏡に向かいニコッと微笑んでみる。
少し年を取ったけれど、昔夫が可愛いと言ってくれた右頬の片えくぼが、昔のまま智子の頬に現れた。
智子は化粧水をパタパタとはたき、ベッドに潜り込んだ。
夫は壁の方を向き、背を見せている。
なんだか哀愁漂う背中に
…この人も年を取ったな…
そんなふうに感じた。
目を閉じた智子に
「……智子…」
夫の声。
「あら、まだ眠ってなかったの?」
訪ねる智子に、返事の代わりに返ってきたのは抱擁だった。
(?!)
ギュッと抱きしめられ、いきなりの出来事に智子の呼吸は止まった。
「ど……どうしたの?」
喘ぐように空気を吸い込み、智子は言った。
夫は何も答えず、ただ首筋に唇を這わせてくる。
「…ぁ…」
ゾクリ…首筋から全身に走る刺激に声がこぼれる。
唇は、首筋を登り頬に届く。
自分をきつく抱きしめる夫の腕に、智子は戸惑いながらも、自分の腕を夫の背中に回した。
唇は頬を通り、額に移る。
…ぁ、これって…
智子の中に長い間忘れていた感覚が甦る。
若かった頃、夫はいつも額からキスを始めた。
額に当てられた唇が瞼に、鼻筋に、順に降りて最後に唇に届けられる。
懐かしい感覚に智子は、体から力が抜けてゆくのを感じた。
夫の唇は、智子の額にチュッチュッと軽い挨拶のようなキスを降らせ、瞼に移る。
目を瞑ったままの智子は、夫の突然の行動に驚きながらも、今はただ、この郷愁にも似た官能に黙って己の身を任せてしまおう…と思うのだった。
「ん…チュ……」
…この人と、最後にキスをしたのはいつだったかしら…
唇を触れ合うだけのキスすら、随分長い間していない。
そんなことを思いながら舌を絡めた。
まだ恋人同士だった頃、デートの終わり、車の中で別れを惜しむようにお互いの舌を吸い合っていた。
帰したくない、帰りたくない…そんな二人の想いを形にしたように、二人の唇の間に銀色の橋がかかった夜。
遠い日の思い出が智子の胸を締め付ける。
「…ふっ…ぁむっ…」
塞がれた唇の隙間から同じ空気を飲み込みながら、智子は瞼の奥から熱い滴がこみ上げ頬を伝うのを感じた。
智子の唇に置かれていた夫の唇が、不意に頬に当てられ、戸惑うように滴の跡を辿ってゆく。
「…泣いてるの?」
夫の声に
「…うん…嬉しいの…」
そう答えた。
「…ごめん」
「やだ…謝ること無いのに」
涙で濡れた瞳で笑いかける。
「寂しかった?」
「ん…少し…」
唇にも笑みが浮かんだ。
夫は、言葉の代わりに再び唇を塞ぎ、智子の髪を優しく撫でた。
フワフワと漂うような意識の中で、パジャマのボタンがゆっくりと外されてゆく。


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