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あやなくもへだてけるかな夜をかさね
【その他 官能小説】

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あやなくもへだてけるかな夜をかさね-12

「あ、あの…あなた…」
「責めてるんじゃ無いんだよ」
「あのサイトの女の人みたいに、君が浮気をしているなんて思って無いよ」
そう言って笑った。
「勝手に君の世界を覗いてしまったこと…本当に悪かった。」
頭を下げる夫に、智子は怒りも恥ずかしさも、どちらの感情も起こらない。
ただ、呆然と夫を見続けるだけだ。
夫は、頭を上げると
「だけど…君が寂しいなんて思ってるって…これっぽっちも思わなかったよ」
真顔でそう言う。
「だって…君は、いつも楽しそうにしてたじゃないか。子供たちと、いつも三人で」
「僕の入り込む余地なんか無かった」
そう言って智子に向けた笑顔は、今にも泣き出しそうなほど歪んで見えた。
「そんな…あなたはいつだって忙しくて…子供たちも、あなたの邪魔をしちゃいけないって思ってたのよ?!」
語尾が強くなる。
責めているわけじゃない。非難しているわけじゃない。
自分の気持ちを押し殺すことに馴れてしまっていただけだ。
「…僕たちは…寂しかったのか?お互いに…」
…ああ…そうだ…
いつのまにか二人は、お互いに相手を理解しようとしなくなっていた。
相手を優先させたつもりで…自分を押し殺していた…
「正直に言うよ」
「僕は…寂しかった…」
夫の…告白。
智子の胸を、目に見えない何かが押し潰す。
ギュウギュウと握り締めるように押し潰す。
「あ…あ、あなた…ごめんなさい…」
智子は言葉を失い、言葉の代わりに瞼の奥から熱い涙が溢れこぼれるのを止めることが出来なかった。


「明日は、休みを取るよ」
「大丈夫なの?仕事」
「ああ、目処はついたし、後は山口一人でもなんとかなるだろ?」
「山口君、可哀想!」
二度目の快楽に溺れた智子は、夫の腕の中で、山口が太った体を揺らしながら額に玉の汗を浮かべた姿を思い、口元に笑みを浮かべる。
「いいんだよ!あいつには彼女も居ないし、休んでるより働いてる方があいつの為だ」
上司である夫は、勝手なことを言っている。
今頃、山口はくしゃみをしていることだろう。
「そんなこと言って…」
軽く非難を込めるが、智子の口元には笑みが浮かんだままだ。
「いいの…明日は君と過ごす」
優しい眼差しで智子を見つめながら、夫の唇が額に当てられる。
「ウフフ…」
智子は照れる。
「残念ね…子供たち。こっちに居たら4人で一緒に出かけられたのに」
「またそんなこと言う」
プウと頬を膨らませ、夫がいじけた表情を見せた。
「せっかくだから二人で過ごそうよ」
「いいけどぉ〜」
「なんだよ、僕と二人じゃ嫌なの?」
「ん〜〜…嫌じゃ無いっ!」
智子は、両腕で強く夫を抱きしめた。


明日になったら…
二人で遅い朝食をとって、それから目一杯お洒落して出かけよう。
二人で映画を見てもいいし…そうだ!デパートに行って、新しいランジェリーを買おう。
照れる夫を無理矢理下着売場に連れ込んで、二人で探そう。
智子にピッタリのランジェリーを。
夕方になって、子供たちが帰ってくるから、二人で駅に出迎えに行って、どこかで食事をして帰ろう。
夫の好きなものを、家族みんなで一緒に食べよう。
あさってになれば、きっと今までと同じ日常がやってきて、お互いを“お父さん”“お母さん”と呼び合うのだろうけど…。
それでもいいじゃないか。
ずっと昔、この人と共に生きていきたいと心から望んだ人だもの。
一緒に年を取って、一緒に泣いて笑って、これからもずっと…。
眠りに落ちながら、智子の頭に一つの企みが浮かぶ。


…あっ!いつか夫の世界を覗いてやろう!…


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