うさぎ-7
巣穴に残ったもう1匹の子うさぎが、恥ずかしそうに彼女に打ち明けます。一番下の甘えん坊な女の子で、ほかの兄弟からも愛されて守られて大切に育てられてきました。
「おかあさん、わたし好きな相手ができたの」
「そうかい。よかったじゃないか」
末の娘の可愛らしい告白に、彼女は目を細めました。
「で、相手はどんなやつなんだい?」
「あのね、お兄ちゃんに連れられて行った、あの森で出会ったの」
湖のむこうにある、さまざまな生き物が雑多に暮らすあの森。この村にくらべれば、たしかにまだ幼い娘の目を惹くものはたくさんあったに違いありません。胸の奥にかすかに嫌な予感を感じながら、彼女は娘の言葉を待ちました。
「とても綺麗な色の毛をしていたわ。堂々と歩く姿もとっても素敵で・・・お兄ちゃんは絶対にあんなやつのそばに行ってはいけないって言ったけど、でもわたし、好きになっちゃったの」
娘の好きになった相手は、百獣の王、ライオンでした。
兄はこの幼い妹に、そばに寄れば間違いなく殺されてしまうであろうことも、むこうから見ればただのエサにしか見えないことも話していたようです。それでも娘は目を輝かせて言いました。
「わたしは彼のそばにいきたい。たとえあの牙で襲われたとしても、後悔しないわ。あんなに素敵だと思える相手はほかにいないの。ねえ、おかあさん、わたしはあの森で彼のそばで暮らしたいの」
「そうかい。おまえが選んだ道なら、それでかまわない。ただ、森で暮らす前に目と目が合った瞬間に食い殺されるかもしれないよ?」
「いいの。この村でなんの魅力も感じない男たちと結ばれるより、そのほうがわたしにとってはずっと幸せよ」
その決意を固めた言葉を聞くと、彼女は黙って巣穴を出てすぐに戻ってきました。たくさんの白い花をくわえて。