ニチヨウビ-3
客席からグラウンドを見ると、ようやく試合が始まりそうな気配である。
天気は雲も見えるが、おおむね晴れと言えるだろう。
観客はまばらだが、ところどころ選手の家族と思われる人たちが座席に座っている。
小さな子供が兄に歓声を送っているのが、微笑ましく思えた。
そんな中、先ほどの優男がわたしの隣の席に座ってきた。
と同時に、試合が始まる。
「どうも、こんにちは。クボタタツヤと申します。ショウ君のご家族の方ですよね?」
「あ、こんにちは。先程はどうも。ショウの叔母です。ショウがいつもお世話に……」
「いえ、堅苦しいことは抜きに。私はただ、ナカガワさんと試合が見たかっただけで」
「あら、わたしは何もお構いできませんけど? サッカーもよく知りませんし」
わたしは、もしかすると今ナンパされているのだろうか。
タツヤの年齢は分からないが、わたしと同世代か少し下くらいに見えた。
作り笑顔なのか、もともと笑っているような顔つきなのかよく分からない。
だが、どこか親しみやすい笑顔でタツヤが答える。
「いやあ、サッカーをあまりご存知ないかと思いまして。何か不明な点は、解説しますよ」
「あなた、確かクボタさんとおっしゃったけど、監督さんも確か……」
「ええ、監督は私の父ですよ」
「じゃあ、あなたこんな所でわたしと話してていいのかしら?」
「恥ずかしながら、私は無職なんです。今は親父のチームで勉強させてもらってますけど、このチームで働いているわけではないんですよ」
「へぇ……何か大変なんですわね」
「元々私も選手だったんですが、怪我がどうにも治らなくて。今は指導者の勉強を…あっ」
タツヤがグラウンドに目を向けたので、わたしも釣られて見てみると、ショウが得点を決め仲間と喜び合っていた。一瞬、わたしの方を見たような気もする。
「ナカガワさん、今の見ました?」
「えっ、点が入ったのは分かりましたが……」
「ショウのロングシュートですよ、これは珍しいものを見たなぁ」
「何が珍しいんですか?」
「いや、あの子は素質があると思うんですが、少し物足りない所もありましてね」
「悪い所でも?」
「率直に言うと、消極的なんですよね。シュートを打てる所でも、なかなか打たない」
「それは、悪いことなんですか?」
「彼はシュートを打てる所で味方にパスを出すんですよ。それ自体は悪いとは言い切れませんが、彼がプロになろうと思っているなら、物足りませんね」
「はぁ……」
「ところが、今ロングシュート打ったんですよ。ショウ、何かあったのかな?」