甘い時間-5
いつのまにか抱きしめられているのはわたしのほうで、優希を見上げるような格好になっていた。優希の瞳が不安げに揺れる。
「いやだった?ねえ、亜由美、こんなの嫌?」
「えっ・・・冗談、だよね?」
「冗談でもいいよ。ねえ、いまだけ、アタシの恋人でいてくれる?」
明日になったら全部忘れて構わないから。
そういう優希の言葉は切実で、聞いているほうが胸の痛みを覚えるくらい。いったいどうしたっていうんだろう。酔っているの?あれこれ考えて返事ができずにいると、優希はわたしの手を握り、もう片方の手でちょうど通りかかったタクシーを停めた。
「乗って」
「え?ちょっと」
優希が運転手に目的地を告げる。それはわたしの家の最寄り駅の名前だった。ここからタクシーだと40分弱。深夜料金が加算されれば、ちょっとした金額になってしまう。
わたしの耳元に唇を寄せて、優希がちいさな声で囁く。
「だいじょうぶ、アタシが払うよ。ねえ、そのかわり、着くまでの間だけアタシの自由にさせてくれるって約束して」
自由に?意味がわからない。熱い吐息が耳にかかる。背筋がぞくぞくして、うまく頭が回らなくなった。優希が差し出した小指に、自分の小指を絡める。その瞬間、甘い約束が成立した。耳元の声は繰り返す。
「絶対に動かないで。声もあげちゃダメ」
わけもわからないまま、優希の言葉に頷く。囁きの後、耳にそっと唇が触れた。
驚いて身体を離そうとしたのに、両肩を掴まれて動けない。優希の目を見る。そこにはいつもの一筋の揺らぎもない挑む様な光があった。
唇が重なる。熱く濡れた舌が入り込んでくる。男のそれとは違う、柔らかで繊細な動きが口の中で繰り返される。