第2章〜第3章-6
細かい敷石が埋め込まれた門までの小路を歩いているさなか、パトカーから二人が降りてきた。ひとりはソフト帽を被っている刑事らしき男性。もう一人は制服警官だった。奈美は後ろを振り返った。母の良美もおずおずと付いてきていた。
「三鷹署の桜井です。泥棒に入られたのはお宅ですね」
ソフト帽を被った刑事は野太い声だった。濃い眉毛によく陽に焼けた顔。眼光が鋭かった。
「はい、そうです」
「状況を詳しくお聞かせ願いますか」
刑事の後ろに控えている制服警官は迅速にメモ帳らしき物を胸ポケットから取り出していた。母が、泥棒が侵入したときの様子を一部始終、話した。「男は、この子のパンツを手に持って…」と母が言ったときは思わず顔を伏せた。恥ずかしかった。
「そうですか…。最近、女子中学生や女子高生にいたずら目的で接近する若い男が出没します。事件は井の頭公園近くの道路や総武線車内で起こっている。三日前は井の頭公園で小学六年生の女子が危ない目に遭った。さいわい、女の子が叫んだので、男は逃げました。危機一髪でした。その変態野郎は「いじろう」と名乗ったそうです。証言を基にして、いじろうの似顔絵を作成しました。お母さんにお聞きしますが、その泥棒の顔は覚えていますか」
「はい、頬に肉が付いたぼよんとした顔に、四角いメガネを掛けていました」
桜井刑事は手に持っていた小ぶりのアタッシュケースをから似顔絵を取り出した。