第2章〜第3章-5
「えっ…泥棒…」
母がかかえているのは、奈美のスリップとネグリジェだった。電話台の下には白いハイソックスが落ちている。洗って干してあった衣類ばかりだ。乾いた洗濯物を取り込んでいるときに、泥棒に入られたのだろうか。
「泥棒は逃げたの? お母さん、ケガしてない?」
「ケガしてないよ。洗濯物を取り込もうと玄関を開けたとき、庭から男が飛び出してきたんだよ。奈美のやられたよ」
「えっ、私の…」
「パンツだよ。男は、奈美ちゃんのパンツを持って、飛び出してきた…」
「えー、ショック〜」
奈美は呆然となった。屈辱と恥ずかしさが滲んだ。昨夜、履いていた下着はハートがプリントされたお気に入りのものだ。悔しい。泥棒の奴はなぜ下着を取っていったのか。ストーカーではないかと思った。奈美の顔を知っている男かもしれない。こちらがその男を知らなくても、奈美に興味を抱いてつけ狙っている場合だってある。
奈美は寒気に襲われた。夏だというのにからだが震えはじめた。
「奈美ちゃん、もうすぐ警察来てくれるからね」
母は自らを落ち着かせるようにつぶやいた。
玄関の引き戸を細めに開けて、通りの様子を窺っていると、パトカーが家の前で停まるのが見えた。奈美はサンダルを履いて外に出ていった。