第2章〜第3章-4
「えっ?」
「はっきりおことわりします」
「何を怒っているのさ…。奈美さん、彼氏いないんでしょう。一度、俺と付き合ってみるのも、いい経験だぜ」
「あなたってデリカシーない人ね。サイテー」
奈美は怒りを露わにした。
「デリカシー? かっこつけるなよ。シホリンがお姉ちゃんに洩らした情報によると、あんたナルシストでオナニストなんだって。自分で自分を愛してウットリしている女は、本物の喜びを知るのが恐いのさ。そうだろう」
篠塚誠一の言葉に奈美は我慢ならなかった。接近した。篠塚の頬を平手でぶった。
起こったことが信じられないとばかりに篠塚は愕然としていた。
奈美は広葉樹の根元に置いていた学生カバンをさっと取って、駆け出した。
「おい、待てよ」
背中で篠塚の声を聞いた。振り返る余裕はなかった。
校門を出てから、チラッと後ろを見た。篠塚は追ってきていなかった。奈美はほっと胸をなで下ろした。
阿佐ヶ谷から総武線で三鷹に戻った。自宅は三鷹駅から徒歩で15分だった。駅まで自転車で行けばいいのよと母に言われていたが、奈美は駅から自宅までの川沿いの道を歩くのが好きであった。
自宅に戻って、玄関を開けると、母の良美が衣類をかかえて立っていた。顔が青ざめている。ただ事ではないと思った。
「お母さん、どうしたの?」
「泥棒だよ。今、警察に連絡した…」