第2章〜第3章-18
次の日は日曜日だった。奈美は午前中、梶谷のケータイに電話した。梶谷から二回電話をもらっていたのに、電話に出なかったことを詫びた。梶谷は「そんなことは気にしなくていい。奈美さんを信じていたよ」と優しく答えた。午後、アパートに行きたいと申し出ると「嬉しい。待ってるよ」と言ってくれた。電話の向こう、梶谷が小躍りしているようすが目に浮かんできて、奈美の心はスキップした。
黒猫のワンポイント柄がある白い木綿のショーツを履いて、同色のブラジャーを身に着けた。服は迷ったが、水色のアリス風ミニワンピースを着てみた。そして、太腿を覆う部分に小さなリボンが付いている白のニーハイソックスに足を通した。
午後1時過ぎ、武蔵小金井駅に近い場所にある梶谷のアパートに着いた。
ドアを開けて奈美を迎え入れた梶谷は笑顔だった。
「来てくれると信じていた」
「この前はごめんなさい」
「ああ、いいんだよ。あの人は彼女ではないからね」
ピンク色のミュールから足を抜いて、四畳半の部屋に上がると、奈美は抱きしめられた。唐突さにびっくりした。
「梶谷さん…」
奈美は抗うことなく、身を硬くしながら名前を呼んだ。
「どうしたの」
「あの人のこと、ちゃんと教えてください」
「疑っているの?」
「疑っていません。だけど知りたいんです」
「わかった。あの人は水原理絵さんといって、同じ職場で働いている人だ。今年の春まで付き合っていた」
「どうして別れたの」
「水原理絵さんを慕う男性がいて…彼は熱心に理絵さんにアプローチしたんだ。そして、三月初旬、ほろ酔い気分になった理絵さんは、彼とラブホテルに入った…」
「そんな…」
「理絵さんの気持ちはしだいに彼に移っていった。僕は振られたんだ」
「ひどい話…」
「仕方がないことさ…。この前は理絵さんに貸してあった本を返しにきたんだよ」
「今でも理絵さんのことが好きなんじゃ…」
「違う。今は奈美さんが好きだ。ずっと好きでいる」
梶谷は力を込めて抱きしめてきた。ワンピースに包まれた下半身を圧迫するモノがあった。
(男性性器だわ)
奈美の胸はどよめいた。
梶谷のくちびるが頬に触れてきた。頬を吸われる。
(こうしてほしかった)
奈美は目を閉じて、くちびるの感触を味わった。やがて奈美のくちびるは塞がれた。強く吸ってきた。奈美はただ口を閉じて、キスに身をゆだねていた。自分から吸う勇気はなかった。
「いいくちびるだ。とても可愛い」
奈美のくちびるから離れた梶谷は囁いた。
「梶谷さん、私…」
「どうしたの」