第2章〜第3章-14
一時間ほど経ったとき、「奈美さん、読みたい本があったら何冊でも持っていっていいよ」と言ってきた。奈美は、もう帰らなくてはいけないのかと思った。だけど、もっと一緒にいたいとは言えなかった。顔を一旦伏せてから、顔を上げて梶谷を見つめながら「本、お借りします」と答えた。
奈美は立ち上がり、書棚の前で並んでいる本のタイトルを見ていった。
背後に気配を感じた。両肩に梶谷は触れてきた。そっと手を置いてきたのだ。
「な、なにを…」
「僕は奈美さんが好きだ。いやだったら逃げてもいい」
言葉は甘く響いた。
「遊びなんでしょう?」
「遊びじゃない。真剣なんだ」
肩に置かれた手が少し強まった。
「彼女がいるんでしょう?」
「今はいない」
「うそ」
「ほんとうだ。奈美さん、頬にキスしていい?」
奈美の胸は高鳴った。憧れの人だから許したい。そう思った。だけど、言葉にできなかった。
「いやだったら、首を振って」
奈美はじっとしていた。やがて梶谷は密着してきた。頬にくちびるを感じて、胸が熱くなった。梶谷は奈美の頬を吸った。奈美は目を閉じた。くちびるの感触を味わった。背後からギュッとされているので、お尻のあたりに感じるモノがあった。その膨らみは梶谷の性器だと思った。欲情すると性器は大きくなる。奈美は知識上、知っていた。
(私に欲情している。憧れの人が欲情している)
内から淫らかもしれない喜びが湧いてくるのを感じていた。
「透明で綺麗な頬だ。嬉しい」
梶谷は、頬からくちびるを外して言った。
「梶谷さんは大人。私は何も知らないの。だから恥ずかしい」
「十七歳はもう子どもじゃないと思う。僕は、高校生の奈美さんに恋をしてしまった。凄く好きだ」