第2章〜第3章-13
喫茶店で話してから四日目の日曜日、奈美は武蔵小金井駅に降り立った。白の半袖ブラウスに黒のミニフレアースカート。黒のニーハイソックスを身に着けてきた。お礼の気持ちを込めて、薔薇を持っていた。
梶谷の住まいは駅から徒歩五分ほどのところにある鉄筋コンクリートの比較的新しいアパートだった。チャイムを押すとほどなくドアが開いて、梶谷はにこやかに奈美を迎え入れた。
「お待ちしてました。さあ、入って」
「おじゃまします。この前はありがとうございました。お礼です」
奈美は薔薇の花を差し出した。梶谷はびっくりしたような顔になって、「気を遣わせてしまった。いやあ、わるいね」と言って、花束を受け取った。梶谷の喜んでいるようすを見て、奈美はときめいた。
玄関から直ぐの部屋は畳の四畳半で両側の棚にはびっしりと本が並んでいた。案内されて、次の部屋に入った。やはり畳の部屋だ。部屋の隅には机。視線を横にずらすと箪笥や書棚があった。部屋の真ん中には透明なガラステーブルがあり、その前に座布団が敷いてあった。
「さあ、どうぞどうぞ」
奈美は座布団の上に膝を落としながら、スカートの後ろが捲れていないか確かめた後、きちんと正座した。
「今、お茶淹れますね。あっ、その前に花瓶花瓶だ」
「おかまいなく」
「いえいえ、かまいますとも」
梶谷は部屋を出た。向こうにキッチンがあるらしく、お湯を沸かしている気配がした。奈美が書棚の本を眺めていると、梶谷は花瓶に薔薇を生けて持ってきた。机の上に花瓶をそっと置いた。
「花があると、部屋が華やかになるなあ」
駄洒落に奈美はクスッと笑ってしまった。
「奈美さん、熱い紅茶でいい。冷房が効いているからいいよね」
「はい、紅茶大好きです」
ほどなく梶谷はカップを二つ、トレイに乗せて運んできた。紅茶を飲みながら、映画の話をした。スピルバーグからゴダールまで、梶谷の映画評は微細な部分にまで及び、その話ぶりは聞いていて心地よかった。