投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

「ふたつの祖国」の最初へ 「ふたつの祖国」 10 「ふたつの祖国」 12 「ふたつの祖国」の最後へ

前編-3

「此方こそ宜しく頼みます。島崎さんと共に、早期解決を目指して下さい」

 高橋の友好的な挨拶を受けて、佐野は精気のない表情で一礼するとその場から離れた。

「大丈夫なんですか、あれ」

 鶴岡がやって来て、露骨に不満顔で島崎に零した。応援が決まった時に見せた専心さは欠片もない。

「そう言うな。あいつらにしか頼めん仕事なんだ」
「分かってますけど、使えるんですか。女性の捜査官なんて……」
「戸田さんの見立てなんだ、大丈夫だろ」

 そうフォローする島崎だが、心中は穏やかではない。
 戸田の親心だとしたら、使えない奴を送り込まれた事になる──却って足手纏いだ。

「噂をすれば、来ましたよ」

 鶴岡が耳許で囁いた。
 見れば、佐野が部下を率いて島崎の方に近付いて来る。

「島崎さん。この報告書なんですが、ちょっと聞き……」

 いきなり、質問を始めようとする佐野を島崎は制した。

「佐野班長。朝からこんな事を言いたくないが、我々は今日から同じチームになったんだ。
 先ず、名前と顔を一致させる為に、自己紹介をするべきじゃないのか?」

 出鼻を挫いた一言。
 一部始終を目の当たりにした佐野の部下が色めき立った。
 自分達の班長が、他所者にコケにされたのだから当然である。

「ちょっと!幾らなんでも、そんな言い方ないだろがッ」

 男の部下二人が、血気盛んと島崎に詰め寄ろうとする。
 だが、佐野は直ぐに止めるよう言い聞かて頭をひとつ下げた。

「いや、申し訳ありません。つい、気になってしまって」

 そして、部下逹を横一列に並ばせ「じゃあ、お互いに挨拶といきましょう」と、言って気安い笑みを島崎に向けた。

「こいつが斉藤、こっちが児島、そして……」

 部下の一人々が紹介された。
 名は体を表すではないが、何れも犯罪組織と渡り合えるだけの面構えをしている。
 猜疑心に満ちた眼の島崎逹とは違う、別の迫力があった。

 だが、

「これが中島、それと岡田です」

 そんな中で、中島真梨子と岡田かほりの女性捜査官は、逆に印象が薄く感じられた。
 どちらも三十歳前後位で化粧っ気のない地味な容貌。体格的にも、一般人と比べて大差ない。

「彼女達も、組織犯罪の専従なんですか?」

 鶴岡が疑問をぶつけた。思った事を口にしないと気がすまない質だ。


「ふたつの祖国」の最初へ 「ふたつの祖国」 10 「ふたつの祖国」 12 「ふたつの祖国」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前