前編-3
「此方こそ宜しく頼みます。島崎さんと共に、早期解決を目指して下さい」
高橋の友好的な挨拶を受けて、佐野は精気のない表情で一礼するとその場から離れた。
「大丈夫なんですか、あれ」
鶴岡がやって来て、露骨に不満顔で島崎に零した。応援が決まった時に見せた専心さは欠片もない。
「そう言うな。あいつらにしか頼めん仕事なんだ」
「分かってますけど、使えるんですか。女性の捜査官なんて……」
「戸田さんの見立てなんだ、大丈夫だろ」
そうフォローする島崎だが、心中は穏やかではない。
戸田の親心だとしたら、使えない奴を送り込まれた事になる──却って足手纏いだ。
「噂をすれば、来ましたよ」
鶴岡が耳許で囁いた。
見れば、佐野が部下を率いて島崎の方に近付いて来る。
「島崎さん。この報告書なんですが、ちょっと聞き……」
いきなり、質問を始めようとする佐野を島崎は制した。
「佐野班長。朝からこんな事を言いたくないが、我々は今日から同じチームになったんだ。
先ず、名前と顔を一致させる為に、自己紹介をするべきじゃないのか?」
出鼻を挫いた一言。
一部始終を目の当たりにした佐野の部下が色めき立った。
自分達の班長が、他所者にコケにされたのだから当然である。
「ちょっと!幾らなんでも、そんな言い方ないだろがッ」
男の部下二人が、血気盛んと島崎に詰め寄ろうとする。
だが、佐野は直ぐに止めるよう言い聞かて頭をひとつ下げた。
「いや、申し訳ありません。つい、気になってしまって」
そして、部下逹を横一列に並ばせ「じゃあ、お互いに挨拶といきましょう」と、言って気安い笑みを島崎に向けた。
「こいつが斉藤、こっちが児島、そして……」
部下の一人々が紹介された。
名は体を表すではないが、何れも犯罪組織と渡り合えるだけの面構えをしている。
猜疑心に満ちた眼の島崎逹とは違う、別の迫力があった。
だが、
「これが中島、それと岡田です」
そんな中で、中島真梨子と岡田かほりの女性捜査官は、逆に印象が薄く感じられた。
どちらも三十歳前後位で化粧っ気のない地味な容貌。体格的にも、一般人と比べて大差ない。
「彼女達も、組織犯罪の専従なんですか?」
鶴岡が疑問をぶつけた。思った事を口にしないと気がすまない質だ。