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「カオル」
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last-13

「お姉ちゃん」

 薫が真由美に言った。

「僕、ひとみお姉ちゃんのお願い聞いたげるよ」
「本当に良いの?」
「うん。今日はお姉ちゃんの誕生日だから」
「ありがとう!薫くん」

 ──目の前で見れる!
 願いが叶う事に、ひとみは心を震わせた。
 真由美は薫を連れ、準備の為に、しばし洗面所へと消えた。

「これ、いい……」

 袖無しのワンピース。胸元の細かいギャザーと大きめのリボンに、薫も気に入っている。

「早速、これ着けて」

 ひとみに借りたブラジャーを、肩紐を調整して薫の身体に合わせてやる。

「何時もより大きめだね」
「悪かったわね。何時もは小さくて」

 服を着せてから化粧を施していく。チークやリップも他人の物だから勝手が違うが、何とか上手く仕上げられた。

「うん。綺麗になった」

 何時もは入れないマスカラも薄く施す。真由美の遊び心だ。
 やや色の薄い、茶色のウィッグ。髪型は真由美が貰った物と同じタイプ。着けてからブラシを入れて整えてやった。

「よしッ、出来たっと」
「お姉ちゃんッ、これ……」

 鏡に映る自分の姿は、初めて感じる雰囲気を醸していた。
 薫自身、身体の芯が熱くなるのを隠せない。真由美も、その出来映えに満足そうだ。

「何時もと違って、新鮮でしょ」
「でも、ひとみお姉ちゃんは……」
「大丈夫よッ。それより、あんたは呼ばれてから入ってらっしゃい」

 真由美は、薫を残してひとみの待つ部屋へと急いだ。

「お待たせ!」
「えっ?薫くんは」

 ひとみは、薫が現れない事に不安になる。一方、真由美は得意満面な顔だ。

「薫ゥーーッ!いらっしゃいッ」

 ひとみの目に映ったのは、膝丈のワンピースを着けた美しい少女の姿だった。

「うああ……」

 思わず息を呑んだ。
 強調された目元と紅い唇が、儚げな少女の中にある、艶やかさを表現していた。

「ありがとう……やっぱり、間近で見ると際立ってる」
「僕も、喜んでもらって嬉しいです」
「そのウィッグとワンピースは貰ってやって。薫くんの為に買ったんだから」

 ひとみの願いを薫は何度も々拒否したが、結局、最後は押し切られてしまった。


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