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「カオル」
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last-12

「薫くん、用意してくれたの!」
「あんまり、お金持ってないから……」
「ううん。気持ちだけで嬉しいのよッ」

 リボンを解いて中身を見た。飴色の髪留めが入っていた。

「ありがとう!大切にするねッ」
「よく、髪留めなんか知ってたわね?」

 感激するひとみを余所に、真由美は弟のセンスに感心する。
 おっかなびっくり渡したプレゼントが喜ばれ、薫はひどく照れてしまった。

「分からないから、店員さんにお願いして……」

 申し訳なさそうに言う仕種が可笑しくて、真由美とひとみは笑ってしまった。

「アハハハッ!あんた、正直過ぎよ」
「でも、そこが薫くんの良いところよね!」
「で、でも、最後は僕が選んだんだよ。似合う物をって」

 ひとみは薫に近寄り、強く抱きしめた。

「ありがとう……とっても嬉しい」
「じゃあ、わたしのも感激してよね」

 真由美が袋から取り出したのは、麦わら帽子だった。

「もう日射しが強いからね。それに可愛らしいし」
「うん!これもいいわ。ありがとう」

 ひとみの喜び様に、真由美も薫も温かい気持ちになった。
 三人は、時の経つのも忘れてはしゃぎまくった。用意した料理も何時もより美味しく感じられた。
 まるで、言葉を交わさなかった日々を取り戻すかの様に、お喋りに夢中になっていた。

 そうして、テーブルに並べた食べ物があらかた無くなった頃、

「ねえ、真由美と薫くん」

 突然、ひとみが改まった口調で言葉を掛けてきた。
 当然、掛けられた二人は身構えて次の言葉を待つ。

「もうひとつ、お願いがあるんだけど」
「な、なに……?」
「あの……」

 ひとみは頬を染めて目を伏せる。急に歯切れが悪くなった。

「……か、薫くんの女装姿。い、一度でいいから見てみたいの 」

 楽しかった雰囲気が一変した。真由美と薫の表情が固まっている。

「ひとみ、それは……」
「解ってるッ、解っているんだけど、どうしても間近で見てみたいの!」

 ひとみは立ち上がり、部屋の隅にあった紙袋を二人の前に置いた。

「こ、これッ、薫くんにと思って!」

 中から出てきた物を見て、二人は驚いた。そこには、ウィッグとワンピースがあった。

(ここまでして……)

 哀願するひとみに、真由美は不憫さを感じた。
 自分から見れば恵まれた環境を与えられながら、独りぼっちの世界で過ごすのを強いられる事が、どれだけ辛いか。
 その辛さを悟らせまいと、大人びた口調と雰囲気を纏い、周囲との一線を引いた。
 しかし、その為に孤独はさらに深さを増していた。
 だが、今この時に見せているひとみは違う。裸の自分を晒け出して心から楽しんでいる。

 真由美は思った。
 この姿をもっと早くたくさんの人に見せていれば、ひとみは違っていただろうにと。


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