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飛んでいく鳥
【家族 その他小説】

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飛んでいく鳥-7



〜〜〜


遡ること、1月3日。
その日は雨でも雪でも無く、晴れ。昨日に引き続いてだ。
前日がやけに調子が良かったので今日もそのままだったらいいな、と淡い期待を抱いていた。
通い過ぎて目を閉じても通れる廊下を伝って、飛鳥の待つ病室に急いだ。

彼女は起きていた。
僕を見るなり無邪気に口元を綻ばせ、大きく手を振った。
なんだか、いつもらしくない。やけに明るく振る舞う飛鳥から、違和感を感じる。
そしてそれはただ見ただけのものでは無かった。

「今日が最期だよ。だから後悔しない様にしときなさい」

ご冗談を、姉さん。
弟と、本人が言うのでは、まったく意味合いが違うんですよ。やめて下さい。
ふざけんな。明日も晴れるんだ。昨日と変わらず明日はやってくるんだ。金太郎飴と同じ、全く変わらないはずだ。
飛鳥は明日もここで笑って迎えてくれる。なぜそれを願うのがいけないのだろうか。

「その減らず口、安心したよ。あんたは殺したって死なない」
「まあな。ところで、早まるなよ。寂しかろうが、生きなさい。さっさと追ってきたら、口きいてやんないからな」

弟の想いを無視して姉さんは続けた。そんなに顔色がいいのに何の冗談だ。

待ってくれ、まだ言いたい事がある。

だか僕の言葉は口から出る事は無かった。


姉さんの口から小さな咳が飛び出た。途切れつつ3回、4回、止まる気配が無い。
やがて咳は瞬く間に大きくなり、喉元を抉る様な咳へと悪化していった。

終わりは誰にも予想出来ない。
ほんのついさっきまで、明日も無事だと信じていた僕は、とっくに消されている。


「姉さん・・・!!」


僕はナースコールを連打した。
壊れてもいい、届いてくれ。姉さんを助けて。お願い、もし何かあったら・・・


すぐに医者の先生が看護師を引きつれて病室に飛び込んできた。
有無を言わさず手術室へ。


情けない事だが、その後の事はよく覚えていない。
赤いランプが消えてほしい様なそのままでいてほしい様な、たった2択の間を心が揺れ動いていたのは微かに記憶している。


涙は、出なかった。
体から感情が全てこぼれ落ちてしまい、ただ空虚だった。

お気の毒ですが、と言われたかどうかすら覚えていない。


僕を置いてもう行っちゃうんですか・・・姉さん。背中がもう見えません。
走ったら疲れますよ。歩いてください、せめて。


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