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飛んでいく鳥
【家族 その他小説】

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飛んでいく鳥-1

例えば僕がオルフェウスだったならば、彼女にもう1度逢えるチャンスがあるのかもしれない。
彼の伴侶は毒蛇に噛まれて、この世を去ってしまった。
生憎、僕は竪琴の名手じゃなくて、冥界の主の、妻の心を揺さぶり、伴侶を連れ出す許可を得られる筈が無いのだけれど。

いや、そもそも僕はオルフェウスではない、なれないのだ。
何故なら彼女は僕の・・・・・


〜〜〜〜〜〜


「・・・・・・!」


不意に、シーツに置かれていた右手が起き上がり、僕の左頬に触れた。
僅かな面積で感じる彼女はまだ温かい。当たり前だ、そんな普通の事が今の僕は嬉しかった。でも、不思議だと思う自分もいた。

「ちゃんと食べてるの?また痩せたんじゃない?」

微笑みながら僕に問い掛ける。
残念ながらそれは此方が言うのが相応しい。彼女は、飛鳥は僕が知る限り、食事を残さなかった事が無いのだから。
病室に流れるのは、とあるゲームの主題歌。あまり詳しくないので、細かい説明は出来ない。ごめん。

飛鳥が操るスティックと記号の描かれたボタンで動くそれらは、人間には真似できない動きを、軽々とやってのける超人と化すのだ。
たかがゲームのキャラクターに嫉妬するのは幼稚だ。それがお門違いだというのも、笑わない家政婦より承知している。

架空と現実を混同する場合、僕はもう手遅れな年齢なのだ。

だが、飛鳥は体調の優れない日は走る事が出来ない。幼い頃から僕を含めた他人が可能な事が、彼女は不可能である。
それなら、僕は妻を竪琴で感涙させるより、まず夫の頬でも叩いてやるのが先だろうか。

屋根から屋根を跳んでいける様になれ、なんて願ってない。
ただ普通に走れて、息切れする事無く日常が遅れて、そして、長く生きられればいいだけなのだ。
贅沢を言うなら、僕を看取って欲しかったりする。

嫌だよ。こっちが残される立場になるのは。
別に楽な気分になりたいんじゃない。生まれたら遅い早い関係無くいつかは亡くなるのだ。

飛鳥の前では絶対に哀しい顔を作らない。その反動か、彼女がいない場面ではいつも目が死んでいる、らしい。

幼稚園から高校まで腐れ縁の悪友がある日、僕の頭の上で空気を掴むのを繰り返した。
一体何のマネかと問い掛けると「操る糸を探していた。死人が動いてるみたいだから」との事。
全く怒りが湧かなかったのは自身でもそうだと思っていたからかもしれない。

反応を示さず黙っていたらつっこめよとつっこまれた。
ギャグがつまらないのを人のせいにしてはいけません。


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