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飛んでいく鳥
【家族 その他小説】

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飛んでいく鳥-4



〜〜


冬。


その日は飛鳥の奇跡的に体調が良くて、外出許可が出た。
いつも彼女を苦しめてばかりな体も、たまには空気を読んでくれるものなんだな。
それがただの気まぐれであったとしても、喜んでおこう。せめて今日と明日、聖なる夜だけはじっとしていてくれ。

今日はクリスマスイブ。街は賑やか、お祭り騒ぎ。浮かれろ、毎日なら騒々しいが、たまには悪くない。


「・・・ねえ」
「なんだい?姉さん」
「似合ってる?さっきからずっと黙ってるから、変なのかと思って」


そんなの、あれだ。はっきり言えば外見なんてどうだっていい。
いつもの水色のパジャマでない姿を見たのは久しぶりだった。それで無ければ、ジャージだろうがウェディングドレスだろうが、何でも構わないのだ。
この日に備えて用意していたらしい。僕にとっては、姉さんはどんなファッションモデルよりも輝いている。

だが、ひねくれ者の僕はそれを素直に言える筈もなく、意味ありげに含み笑いするだけだった。

「なんだよ貴大、正直に言えよー。こういう服着たの久々なんだからな」
「さあね。何を着ても新鮮だよ、姉さんは」

僕の受け答えに臍と唇を曲げて拗ねる飛鳥。
真っ赤なチェックのスカートから伸びる白い足は、今にも圧し折れてしまいそうな程細かった。
こう見えても歩くだけならその機能を果たしてくれる。弟の僕が言うんだから間違いない。

街に増殖し続けるカップルや家族連れに溶け込む、僕と飛鳥。
こうしていれば飛鳥はただの女の子である。今日は調子がいいので、はしゃいでも特に問題は無い。

「ちょっと休みたい」

やっぱり、無理はいけないか。
病気に対しては慎重でなくてはならない。外側だけで病状が全て分かれば、苦労しないのだが。
飛鳥は駅前の噴水に設置されたベンチに座った。口から白い息が昇っている。

「目眩しちゃうね。街に出たの久々だか・・・っく」

軽く咳払いをする飛鳥。
まさかな。僅かに芽吹いた疑問はすぐに確証へと変わる。
軽いはずの咳がやがて頭を揺らす程むせて、しまいには上半身まで巻き込んでいく。

音は聞こえなかったが、飛鳥の足元に赤い花が咲いた。靴には溢さなかったけど、代わりに白い大理石が染まる。

「あはっ、はしゃぎすぎたかも。平気だよこれくらい」

僕を見上げる飛鳥の口元は、サーカスのピエロだった。
これが道化なら笑えない。僕は用意していたハンカチで深紅のそれを拭う。


「・・・・・・・・・」
「どうした?姉さん」
「帰らない、の?病院・・・」
「大人しくしてれば問題ない。平気なんでしょう」


この状況を赤の他人の100人が見たとしよう。おそらく僕の判断を正しいという人は、1人たりともいない。
だが、いい。そいつらのご機嫌を取る為にやった訳じゃ無いのだから。
今日を逃したら姉さんを自由に出来る機会がいつになるか、それこそ神のみぞ知るのだから。

飛鳥は唖然としていたが、やがて微笑み手招きした。
促されるまま隣に座り千単位のイルミネーションに彩られたクリスマスツリーを見上げる。
何も話さず一緒に聖なる夜に浸っていた。呼吸は、乱れていない。良かった。人間は意外と強いのだ。


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