「こんな日は部屋を出ようよ」中編-8
「何処までやれるか分からないけど……」
僕は謝罪を繰り返す内に、ルリが受け入れない事にばかりを憂慮していた。
受け入れの良否は彼女が決める事であり、例え駄目だったとしても僕に出来るのは謝罪を続ける事だけだ。
但し、それだけを繰り返していても先には進めない。もっと、何が彼女にとっての最善なのかを考慮するべきではないのか。
自分なりの答えを見つけた時、ふいに、携帯が鳴り出した──友人からだ。
「どうしたんだ?家庭教師の時間じゃないのか」
何時もと変わらぬ声。
「ごめん。どうしようかと迷って連絡したんだ」
「迷うって、例の従妹か?」
「うん。だけど、待ってる間に答えが見つかった」
「何だよ、それ」
友人は「じゃあ、頑張れよ」と言葉を残して電話を切った。
落ち込んでいたのが嘘のようだ。進むべき道を見出だすのは、こんなに気分が晴れるものか。
僕は、答えを実行する為、自宅へと急いだ。
帰り着いた僕を、母が待っていた。夕食の準備中だった。
「おかえり、まだ大分掛かるわよ」
「いいよ。まだ、やる事があるんだ」
今はそんな気分じゃない。僕は自室に隠り、パソコンのキーボードを叩き始めた。
──ルリの為に模試を作る。彼女が僕に会いたくなくても構わない。家庭教師としての立場で、来週からの中間試験にはベストな状態で臨ませてあげたい。
今日、明日の二日間で、出来るだけたくさんの問題を作って、月曜日には届けてやらねばならない。
(もっと早くから準備しとくんだった……)
様々な検索サイトから、例題と解答例を写し取る。サイトの例題をそのまま使うのでは能がない。解答をよく理解した上で、自分なりのアレンジを加えて例題を作り上げる。
出来た例題の幾つかを、画面に配置して同じ試験用紙を二枚作り、一枚はそのまま、もう一枚には解答例を書き込んでおく。
これで、僕が居なくても自分で修正可能だ。
思った以上に手間が掛かる事に焦燥感を抱きながら、僕は自室で孤独な作業を繰り返した。
頭の奥で、何か音が鳴っている。
「おいナオ、起きろッ!」
今度は、身体が揺れている感じだ。
「ほらッ、起きろって」
「へっ?」
視点が合わない。霞み掛かった目が、此処は自室で、そこに居るのは友人だと告げている。
「どうしたんだ?こんなところに寝て」
「ああ、ちょっとね……」
いつの間にか、机に突っ伏して眠ってしまったようだ。
「君こそどうしたのさ?今日はバイトも休みなんだろ」
「昨日の電話が気になってな。それより、もう昼だぞ」
彼の話では、僕がどんな答えを出したのか気になったそうだ。お節介な友人らしい反応だ。