「こんな日は部屋を出ようよ」中編-6
「自分を卑下したって、何の解決にもならないぞ!」
「そんな事は、言われるまでもないよ」
「だったら、先ずはそっちに考えを切り替えろよッ。失敗を省みるのはその後じゃないのか」
やはり、彼は僕なんかより人間が出来ている。傷口を最小限に留める術を心得ていた。
「そうだね。先ずはルリの事をどうするか考えないと」
「そういう事だ!」
友人はにこやかに笑った。
僕はまたひとつ、彼に助けられた。
夕方を迎え、僕は叔母の家へと向かった。
足取りが重い。昼間は威勢のいい事を宣言しながら、いざ実行となると怖じ気付いている自分がいた。
(とにかく、先ずは謝らないと……)
許してはもらえないだろうが、誠意を表すのが先決だ。
その次に、二度とこの件について触れない事。これしか方法はない。
「ごめんなさい……ルリ、会いたくないって」
しかし、僕の考えは最初から砕かれてしまった。
玄関口に現れた叔母は、不安気な顔を僕に向けた。
「そうですよね……」
再び、僕は事の重大さを思い知らされた。
心の何処かにあった“謝れば済む”という考えの甘さを、見透かされた気分だ。
彼女は、謝罪の機会さえ与えたくない程、僕を許せないのだ。
──先ずは解決の為に動け。
しかし、このまま、引き下がっていては進展もない。いや、時間が経過すればする程、イメージが固まって距離を縮める事も出来なくなる。
彼女が拒否反応を示していても、僕の思いを伝えていかないと。
「叔母さん。ルリに謝らせてもらえないかな?」
「でも、多分、会わないわよ。結構、意地っ張りだから」
「部屋の前からでもいいんだ。とにかく謝らせてよ」
「……わかったわ」
叔母に許しをもらい、僕は家の中に入らせてもらった。
二階の突き当たりがルリの部屋。何時もは何気に開けるドアも、今は、彼女の心と同様に堅く閉ざされていた。
僕は、ドアをノックしてから思いの全てをぶつけた。
「ルリちゃん。ナオだ。今日は謝りに来たんだ。僕の身勝手な探究心が君を傷付けてしまった。本当にごめんなさいッ!」
伝えてから中の音を窺ったが、何の物音もしない。
「また、明日も来るから……」
こうなると解っていたが、目の当たりにすると心が痛む。
遣る瀬ない思いで階段を下りて行いくと、心配顔の叔母が待っていた。
「ナオ……」
「僕なら大丈夫。明日も来させてもらうから」
「ちょっと、こっちに来て」
叔母は僕をリビングに招き入れて、奥のテーブル席に座るよう促した。