「こんな日は部屋を出ようよ」中編-12
(だから、メッセージを……)
言葉では伝えきれない物が文章にはあると知っているから、友人はあれほど固持した。
孤独だと気付いたから、励ましが必要なんだと説いたのだ。
僕はバスから降りた。
夕闇の迫る中、自宅へ通じる短い道を歩きながら、顔が笑っている自分がいた。
悔しいけど完敗だ。友人の見せた相手に対する思いやりは、未熟な僕では考えもしないアイデアだ。
(また、助けられた……)
何も考えないという当初の思惑からは離れてしまったが、清々しい気分になれた夜だった。
水曜日は朝から雨だった。
僕は今、大学を休んで怠惰な流れに身を任せている。
友人のおかげにより進むべき方向を見出だせた事が、心に平静を呼んでいる。後は、木曜日になるのを迎えるだけだ。
誰も居ない家のリビングで、のんびりと昼食を摂る。隅に置かれたテレビを、見るとはなしに眺めている。何時も味わっている賑やかさとは違う、作られた笑いを聞いていた。
その時だ。キッチンに据付けられたスピーカーが、雨の来客を告げたのだ。
僕は躊躇った。
服は寝起きのだらしない部屋着。そのうえ、頭には寝癖が付いている。とても、人に会える格好とは言い難い。
居留守を使おうと静かにしていたが、相手もしつこく、何度も々ドアフォンを鳴らし続けた。
(もし、急ぎの用事だったら)
そう思った僕は、そっとリビングを出てキッチンのモニタースイッチを押した。
画像を見た途端、僕の平常心は何処に吹き飛んだ。そこには、制服姿のルリが立っていた。
「ど、どうしたのさ!こんな雨降りに?」
僕は急いで玄関を開けた。
ルリは、こちらを一瞥するなりすぐに視線を逸らした。
やはり、人に見せられる格好ではないようだ。
「中に入ったら?そこじゃ濡れるよ」
ルリは小さく首を振り、中に入ろうとしない。
「あの……」
その場で、僕の方に手を伸ばしてきた。その手には、横長の封筒が握られていた。
「な、なんだい?これ」
訊いても、彼女は何も答えない。僕に手紙を押し付けると、逃げる様に玄関口から飛び出して行った。
「お、おいッ!ちょっとッ」
気付くと、サンダルを突っ掛けて後を追っ掛けていた。
強い雨粒が容赦なく身体を叩いた──構わず走り続ける。
──今を逃せば、また会えなくなる!
「待ってくれッ!」
気付けば、彼女の腕を掴んでいた。
「離して……下さい」
ルリは振り解こうとする。
「どうして逃げるのさッ。まだ僕を許せないのかッ?」
思わず、肩を掴んだ。ルリは顔を背けている。
「て、手紙……」
「手紙?」
「お礼を……直接言えないから手紙に書いて」
どうやら、僕は頭に血が昇ってしまい、とんでもない早トチリをしてしまったようだ。