『STEEL DUST GLAVES』人形舞刀篇-5
既に、”妙掌刹那”楊明孔は玲の刀の錆びとなっていた。
この技は、死合った時の楊最後の一撃。
忘れる筈も無く。この通り。
「白麗ッ!!!!!」
麗花が叫ぶ。
その一瞬の隙を見て、麗花の首を玲の刀が襲う。
なんとか右手で防いだが、もう使い物にならないだろう。
「どうだ己が半身を失う気分は」
答えない。
ただ不気味な笑みだけが応えた。
「生かしておくつもりだったけど」
“桃源郷”の電気が一斉に落ちる。
構える麗花の左手が、銀色に白熱する。
愛しい白麗、独りでは寂しいでしょう。
今、私達が愛した玲を貴方の下へ。
これが万に一つの勝機。
“桃源郷”の電気をENに代えての、すべてを溶かす白熱の掌。
白家三十八掌の秘伝“神左”が外法、“神の見得ざる手(thegodhand)”。
網膜で追えぬ神速の掌、目前に逢っては神の御許に送られる。
対して、玲の構え。
またしても陸家体極八構の一つ、“鷹噛”。
奥義でも秘技でも無く、陸家武技の基本。
陸家同門の誰が見ても、勝負は決していた。
二つの影が動く。
伸縮自在鞭、”雷公”の使い手ベアトリ−チェは苦戦していた。
既に五体のうち、二体が動作不能、一体が致命的なダメージを負っている。
フランチェスカの使う技はまさしく陸家武技。
どうしてだ。
彼女は考える。そう、彼女こそが白から直接魂魄転写を受けた人形だ。
彼女には白の記憶がある。
フランチェスカの動きには見覚えがあった。
これは、そう、黄の動き。
致命的な傷を負っていた倭刀、“狂骨”の使い手アレクサンドリアが崩れ落ちる。
「あなたまさか」
そんな筈は無い。
魂魄転写を行うにはそれなりの術式処置工程と時間が必要だ。
黄がフランチェスカの主人になって精々一ヶ月。
“三合会”の凶手にして、香主の黄にはそんな時間は無かった筈だ。
フランチェスカは答えない。
その光を帯びた目は魂の証拠。
三節棍、”鎧百足”の使い手、ヘンリエッタが崩れ落ちる。
怯える。魂を持った人形が。
私は白様の様には狂えない。ベアトリーチェは50%の魂しか持たない。
恐怖。恐怖。恐怖。
避ける。避ける。避け、られない。
ベアトリ−チェは思った、半端な魂なんて植え付けられなかったら良かったのに。
恐怖に怯える人形の首が、刎ねられた。
フランチェスカは興味の無いものを見るようにその光景を眺め、その視線を奥の貴賓室に移した。
廊下の蛍光灯が一斉に消える。
何かの前触れだろうか。
人形は歩みだす。
その思考は得てして知らず。
人形は歩みだす。