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KILL OR DIE
【アクション その他小説】

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KILL OR DIE-1

俺の名はローハインド。クールがポリシーの二十二歳。この血生臭い話しの舞台はアメリカ。時の頃は、近年まで流行していたジャズ・ミュージックが廃れ、昨年には大恐慌が襲い、アル・カポネを中心としたマフィアがひしめき逢う、混沌たる時代だ。街に治安や秩序は皆無。略奪や殺人が日常の、そんなイカれた時代に俺は生を受けちまった訳だ。これを不幸と呼ばずに何と呼ぶ。もっとも、一つ、幸いだった事を挙げるとすれば、俺のクソ親父は元暗殺者であり(何故かアルセーヌ・ルパンばりの変装の達人でもあった)、俺はその才能をしかと受け継いでいたということ位。こんな御時世だ、そいつがあれば、この暗澹たるカオスの時代じゃ、学歴や家柄がなくとも生き延びることは可能だ。そしてそんな生き方をしていれば、自然と名声も上がる。無論、悪名だ。世間じゃ俺みたいな奴等をこう呼ぶ―さすらいの賞金首―。ちょっちクールな響き?
俺は今、とあるダウンタウンの薄暗い地下バーで、独り、クソ安いブレンデッド・ウィスキーを嚥下(えんか)している。その店のマスターは体格が良くて顔がいかつく、お世辞にも気さくなマスターと呼べる人間ではなかった。俺の探し人に、どことなく雰囲気が似ていた。周囲を見渡せば、明らかに堅気の人間とは程遠い連中が、麦酒やらワインをひっそりと舐めている。ちなみにこの時代のアメリカでは、禁酒法と呼ばれる、希代な飲酒禁止の法律が、庶民の細やかな楽しみを侵食していた。よって、麦酒やワインは『この飲料水は腐っています』との分かりやすく、語弊を招くような名目でひっそりと販売されている。発酵と腐敗のニュアンスを利用した珍妙な販売方法だ。まあ、その程度の不理屈なフェイントでポリスの目を欺ける筈もなく、堂々と購入可能な代物ではない。それでも俺等がこうやって昼間から酒浸になれるのは、単純に、この秘密バーを経営するのが『カモッラ』であるという事実があるからだ。カモッラと言うのは、イタリアから渡った組織で、マフィアに敵対する裏組織の事だ。その性質はマフィアとは異なり陽気なイメージがあるが、実際はマフィア以上に暴力的な闇組織だ。
マフィア、カモッラの他にも『ヌドランゲタ』と言う、舌を噛みそうな名称の組織があり、その三つが、このイカれた時代のアメリカ三大犯罪組織である。まぁ、この非合法バーを経営するのがどこであれ、酒さえ飲めればどうでも良い話しだ。こうやって高値を払って酒を飲み、社会のクズ的組織に資金を提供しているのだと思うと、少し酒が不味くなる。まぁ、仕方ないさ。堅気の店でも酒は密かに売られているが、犯罪組織の後ろ立てがない分、足もつきやすい。ポリスごとき、帰り打ちにしてやる自信はあるが、無駄弾は使わない主義だ。不景気には節約が肝心だからな。面倒臭いし。 俺がこのバーに入ってから五本目の煙草に火を付け、三杯目のウィスキーを禿げたマスターに注文した時、入り口と裏口のドアが同時に開いた。なでれ込んで来たのは、一介の会社員とは雰囲気の異なる黒スーツを着こなした、殺伐とした男たちだ。仲間を引き連れ、昼下がりに軽く一杯…そんな雰囲気じゃなさそうだ。俺が特に気にした風もなく煙草を吸っていると、奴等はゆっくりと、獲物を狩る猛獣の如く、俺の周りを取り囲む。
俺は煙草にともる火を見つめながら、神経をナイフのように鋭敏化させて、気配を探る。…十五…十六、十七…
「十八人か…人独り捕らえるのに、ご苦労な事だな」
煙を盛大に吐き出しながら言った。
「妥当な数字かと思われますが?Mrローハイン…」
全ての感情を押し殺すかのような、冷たい声色。俺は椅子に座ったまま、振り替える。視界に飛込む人の群れの中、その言葉の主は、ひときわ際立った風格を纏っていた。ポーカーフェイスを顔面に張り付け、黒髪をオールバックにした顔は、アジア系だった。日本人か…中国人かは判別しがたいが、その男の放つ冷徹な雰囲気は、決して人種の違いがもたらす物ではない。いくつもの死地と修羅場をくぐり抜け、眉一つ動かさずに赤子を殺す。そんな男だ。つまりは、俺と同じ穴のむじなだ。
「俺の顔も随分と有名になったもんだな」
俺はうんざりしながら言った。睡眠と飲酒の邪魔をされるのは男に犯される程嫌いだった。
「この界隈では皆あなたの事を知っていますよ。かつて、かのアル・カポネのシークレット・ウェポンとして知られた暗殺者、グレス・ローハインドの御子息ですから」



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