KILL OR DIE-5
「ちなみに言えば、実は、私を雇ったのはカモッラではありません。グレス・ローハインド、つまりは、あなたの父上に、あなたの殺害を依頼されたのです。周りの連中はフェイクのため、彼が裏で糸を引いた一般人。私も良くは分かりませんが、恐らく、仕事に飢えた方たちでしょう。カモッラとは全く関係がありません」
「…分からねぇな、何故そんなまどろっこしいまねをする必要がある」
「それについては、まず、何故彼が私にあなたの殺害を依頼したのかについて考えて見てください。何故でしょう。利益のため?違います。自分ではあなたにかなわないから?それも違います。彼は単に、あなたの実力をその目で確認したかったのですよ。ただそれだけの事です。もしあなたが今よりも遥かに強く、圧倒的な力の差で私を追い詰めることができたら、あるいは、今頃、彼はあなたの前に姿を現していたかもしれません」
「…おい…ちょっと待て、奴はどこかで…今の戦いを見ていたってのか!?」
「その答えは、NOです。しかし、さっきまでこの店内にいたのは事実ですよ」
「……それは、どう言う意味だ?」
「私たちが戦う前から、彼はあなたの側にいた…。そしてあなたの物腰、身に纏う風格、殺意の質だけで、彼はあなたの実力を見極め、戦いを見るまでもないと悟り、この店を去った。そのような人物に、重い当たる節があるでしょう?」
キサラギと逢う前からこの店内にいた奴で、俺の殺意を直接受けた奴と言えば…。
「…あのマスターか」
「御名答。彼は変装の達人ですから。ちなみに、今から追っても間に合わないと思いますよ?もうすでに他の人間に変装しているかも知れない」
「…だろうな。つまり、奴は俺の力が見たくて、お前に俺の殺害を依頼し、本人は高見の見物を決め込むつもりでいた。しかし、俺たちが戦う前から奴は俺の力を見抜いて、その弱さにしらけて消えちまったと?」
「YESです。Mrローハインド」
「で?お前は何故クライアントがいなくなったのに、俺と戦った?目的が俺を殺すことより力を知ることにあるなら、すでに達成されていただろ」
俺は聞いた。
「同じですよ。私もあなたの力に興味があった。理由はそれだけです」
「それで、命を払ってまで見る価値はあったのか?俺の力は」
「…そうですね、死ぬのは少々惜しいですが、おおむね満足はしていますよ」
「なら、もう二つ程聞かせろ。このカモッラに扮した連中は何故用意した?それと、この店を経営するのは本物のカモッラのはずだ。何故あの男がいいように利用できる?」
「最初の質問の答えは、彼等を用意した方がカモッラっぽいから。実に簡単でしょう。私のような東洋人がイタリア系カモッラだと言って、あなたは信じますか?」
「まさか。こんな時代だ、アジア人は観光客すら見たことないからな」
「だからですよ。そして次の質問の答えは、彼がカモッラの人間を装っていたのは、あなたの力を見るためだけではないからです。彼は今、マフィア、カモッラに並ぶ三大犯罪組織の一角、ヌドランゲタに所属しています。このバーを経営しているのはカモッラであり、彼が紛していたマスターも当然、カモッラの人間です。周知の通り、カモッラは酒の売買が大きな資金原となっています。彼はこの店のマスターを殺し、化けた。そうする事でカモッラ内の情報を仕入れ、酒の売り上げをごまかし、ヌドランゲタの資産にしていた訳です。あなたがこの街へ滞在している事を知った彼は、私にあなたの殺害を依頼した。あなたの実力を計るためにね。そして都合良く、あなたは今日、この店に現れた。後の経緯は、この通りです…」
…まるで、奴独りの手の上で踊らされていたようだ。俺は苛立ちに顔を歪めた。
「…じゃあ、最後の質問だ。奴がヌドランゲタの人間だという事は、奴のねぐらはこの街の中にあるという事か?」
「…彼が所属しているヌドランゲタは、パリオット・ファミリーです。彼程の人間が、こんな小さな街の支部にいつまでもとどまる理由はありません」
パリオット・ファミリー。その名は誰でも知っていた。最大最強のマフィア、アル・カポネやラッキー・ルチャーノでさえ一目を置く程の、ヌドランゲタ最大のファミリーだ。ニューヨークの本部以外にもアメリカ大陸の多くに支部を持ち、その規模では犯罪組織No,1だ。