いけない課外授業-1
高校2年生の3月。
3年の先輩たちは卒業してしまったけれど、新1年生が入学してくるまでにはまだ少し時間がある。いつもにぎやかなはずの学校なのに、ちょっとだけ元気が足りないような、なんだか寂しい感じがしてしまう。
それを親友の美野里に話すと、アンタはお気に入りの先輩が卒業しちゃって寂しいだけでしょ、なんて笑われた。
「まどかは裕也先輩のこと、大好きだったもんね。それなのに最後までコクりもしないで、黙って見送っちゃうんだから・・・」
「そんな、告白なんてできるわけないよ!わたしのことなんか裕也先輩、なんとも思ってなかったに決まってるもん・・・」
美野里は怒ったような表情を作って、わたしの鼻をつまむ。意志の強そうなはっきりとした濃い眉のあいだにしわがより、大きな茶色の瞳が覗き込んでくる。
「だいたいねえ、高2にもなってまだ誰とも付き合ったこと無いなんて、すっっごく珍しいよ?もっと好きになったら自分からガンガン行かなきゃ!」
気がついたら恋もできないババアになっちゃってるから、なんて憎らしいことを言う。美野里とはクラスは違うけど、同じ生徒会で活動しているうちにいつのまにか仲良くなった。くせっ毛の赤茶色の髪をショートヘアにして、勉強も運動もよくできる。いつでも元気で明るくて、それにスタイルだってすごく良い。わたしの自慢のお友達。
「だって、わたし・・・美野里みたいに、自分に自信ないもの」
美野里から視線をそらして、窓の外に目をやる。運動部の子たちが練習している様子が、校舎の2階にあるこの教室からはよく見える。秒針が動くたびにカチカチと大きな音がする古い時計の針が示す時刻は、もうすぐ5時半になろうとするところ。オレンジ色の夕陽は西の空へと沈みかけていて、グラウンドの向こうに見える住宅街の明かりがチラチラと輝き始めた。