E-6
「先生、お茶ばどうぞ」
母親が、一升瓶に詰めたお茶を湯呑みに注いだ。
「ああたのおかげで早う仕舞えた。遠慮せんと、食べて下せえ」
家長の祖父は、にこにこ笑っている。働きっぷりが気に入られたようだ。
「ありがとうございます!」
雛子も、受け入れられた事の嬉しさがいっぱいで、この先も頑張るつもりだ。
「あの、貴之君ん家の田んぼは何処なんですか?」
「すぐそこだ。向こうは二人でやっとる。飯食ったら加勢に行かにゃ」
「だったら、私も行かせて下さい」
雛子の思いを聞いて、今度はヨシノの父親が話に加わってきた。
「そだど、一反半ばかりの田んぼに余おけで加勢しても……」
「苗運びでも苗渡しでも構いません。手伝わせて下さい」
食い下がる雛子。
食事をご馳走になるのに、手を貸さないのは彼女の道理が許さなかった。
結局、後の作業も約束して昼食となった。
日が西の山影に掛かる頃、雛子は自宅に帰って来た。
「あいたた……」
年寄りの様な、前屈みの腰に手を当てた。
田植えの為に日がな一日、屈んで作業をした事で、腰にかなりの負担を強いていた。
(とりあえず、終わって良かった……)
昼食後の作業は、一反半の田んぼを八人掛かりで当たったから、夕暮れを待たずに終わってしまった。
「さて……お風呂沸かさなきゃ」
作業後、ヨシノの祖父に、田植え仕舞いの祝いを行うから参加するようにと誘われたが、これ以上のお邪魔は却って迷惑になると思い、丁重に断った。
すると、母親が夕食にでもと黄鶏ご飯の残りを持たせてくれた。
釜の水を入れ替えて、焚き口の小さな薪に火を点もす。
小さな火が音を立てて大きくなり、焚き口一杯に広がった。
太い薪を先に、更に豆炭をくべて団扇で扇いで、強い火を安定させる。
「これで、しばらくはいいわね」
ひと仕事を終えた雛子は、家の中に戻って茶の間の上がり口に腰掛けた。
「夕ご飯はいいとして、お風呂入って服も洗わなきゃ……」
馴れぬ作業に、甚だ疲れていた。このまま寝てしまいたいのが本音だった。
雛子の胸に、昼間の想いが再び涌き上がってきた。
自分でさえ、これ程に辛い。幼い子供逹に至っては尚更の事だろう。
それに、子供が必要とされる百姓仕事はこれだけではない。
これから、水を落とす秋迄は、休みの度に田んぼに生えた草取りをやらされるし、収穫時にも又、一家総出の稲刈りが待っている。
他にも、鶏などを飼っていれば、勿論子供が世話をする。