林田みずきの嫉妬、そして憎悪-3
たまに高校時代の斎藤の友人や、一部のバイク仲間から「斎藤が迷惑がっているから、もう離れてやれ」と言われたこともあった。でもみずきは、きっと自分があまりにも幸せそうだからみんなが嫉妬しているだけだと信じて疑わなかった。
そうして4年が過ぎ、みずきは大学を卒業し、社会人になり、環境は変わったけれど彼への気持ちはまったく変わらなかった。だから今日も彼が真面目な顔で「話がある」と言ったとき、みずきはきっとプロポーズされるのだと思っていた。
それなのに。
斎藤はみずきを真っ直ぐに見ながら「帰ってくれ、もう会えない」と繰り返す。どうして?いったい何が起きているんだろう。頭は混乱するばかりで、どうすればいいのかわからない。みずきはこみあげてくる激情を抑えきれずに叫んだ。
「・・・じゃあ、好きじゃないのにどうしてエッチしたのよ!わたし、初めてだったのに・・・ひどいよ・・・それにデートだっていっぱいしたじゃない!なのにどうしてそんなこと言うの!?つきあってないなんていうの!?」
斎藤の表情が曇った。
「何度も謝ったと思うけど、俺、ほんとにあの夜のことなんにも覚えてないんだ。悪いことをしたと思った・・・だからこの4年間我慢してきた。でも、もう無理なんだ。デートなんてしてないだろ?勝手にいつもついてきていただけだ。俺のこと許してくれなくてもかまわない。ひどい奴だと思ってくれていい。だから鍵を置いて早く帰ってくれ。もう会うつもりもない」
「ひどい・・そんなのって、ないよ・・・」
「本当はもっと早く言うべきだった。友達の前でべたべたされるのも、どこへでもついて来られるのもうんざりだ。林田、俺は君のことを好きだと思ったことは一度も無い」
斎藤につかみかかっても、泣き叫んでも、あとは「帰ってくれ」という言葉しか返ってこなかった。
「一樹くんの馬鹿!もう知らない!」
捨てゼリフを残し、斎藤の部屋のスペアキーを床に叩きつけて部屋を飛び出した。アパートの階段を降りながら、追いかけて来てくれるのを期待した。階段の下で10分待っても、20分待っても斎藤は追いかけて来なかった。