序章〜第1章-6
(これは王子様の手なんだ。そして、一方の手で強く抱きしめて)
奈美は左に寝返りを打って、横向きになった。左手でふとんの一枚を丸めて抱きつき、上になった右足をからませる。あたまを枕に付けて、さらに強くふとんを抱きしめながら、処女宮を愛撫していた人差し指の位置を上に持ってきた。
小さな花の芽は、小豆大ほどに勃起していて、包んでいるヴェールを脱いでいた。さっき親指で触れたとき、電流が走ったところだ。奈美は処女宮や花びらよりもさらに柔らかく、かすかに、指頭でそれを撫でる。はじめは下から上へと撫で、つづいて右まわりに撫で、左まわりに撫でる。やはり自分の指ではないように思い込もうと努める。
「あっ、あっ、いいっ」
指の動きに応じて腰が震えはじめた。心臓の動きも早くなり、呼吸も乱れてきた。自慰に害はない。性生活の訓練としてよいことだと医学者は本に書いている。けれども、精神的なうしろめたさが、奈美にはあった。だから、週に二回だけと決めていた。
ゆるやかにうねっていた波の動きが、しだいに荒くなってきた。奈美はふとんカバーにくちびるを押しつけ、強く吸った。足をさらに深くからませた。
王子様に愛撫されている。恥ずかしい芽を愛撫されている。そう思いながら指頭を動かした。
奈美は仰向けになった。ネグリジェの前をはだけて、左手の親指と人差し指と中指で乳首を摘んだ。摘んでひねった。軽い痛みも快感だった。
右手の動きはしだいに濃密になっていく。人差し指の圧力は最初のころより強くなり、キーンとした刺激が花の芽から全身に響く。腰や足がブルブルと震えた。昂奮のなか、右手の中指を処女宮に入れた。熱い泉にまみれた指頭で外側の花びらと内側の花びらのあいだにある細い溝を撫でまわした。
奈美は意識から雑念が消え、透明な心境になる。心だけでなく、からだまで透明になっていく境地だった。
(わたしは妖精になる)
桃色の世界が近づいてきた。奈美にはその接近がはっきりとわかり、それを迎え、そのなかに溶融する姿勢になった。