序章〜第1章-5
級友の三上志穂から、問い詰められたことがあった。
「奈美はオナニーするの?」
「えっ……」
「顔が赤くなった。奈美もするんだ。私は片想いの男性を思い浮かべながらするの。すごく気持ちいいよ」
「そう…。私は今、想っている人いないから…」
奈美の場合、ただぼんやりと、自分をあたたかく包み込む異性的なものを思い描きながら、自慰していた。
男性のやさしい指を想像しながら、できるだけ微妙な触れ具合になるように気をつけて、リズミカルに人差し指で愛撫する。
(気持ちいいわ…)
処女宮から、全身に気持ちよさが広がっていく。つま先が震えているのが分かった。
ときおり、人差し指を深くのめりこませたい衝動に駆られることがある。無意識に〈物〉をそこが迎えたがっているのかもしれない。奈美はその衝動を抑えていた。衝動に応えるのはやはり怖かった。
泉はあふれて熔岩のように火口原からこぼれる。肌を伝うのを意識して、左手で紙を取って、肌を拭った。さらに何枚かの紙をネグリジェと腰のあいだに敷いた。
男性は、女性が凄く濡れてくれるとよろこぶということを、奈美は本からの知識で得ていた。
(わたしは合格なんだわ)
電車の中で文庫本を読んでいて、濃厚なキスシーンを描いたところに行き当たると、それだけでもう泉があふれ出る感覚があった。思わず、腿と腿をすり合わせたくなってしまうのだ。
奈美はふたたび目を閉じた。二つの花びらをそっと分けて、指の先端を入れた。静かにかすかに人差し指を動かす。
(ああ、気持ちいい…)
同時に、中指で左の花びらを押し、薬指で右の花びらを撫でる。
奈美は他のことは頭から排除して、自分の世界に入る。大海原のなかに、奈美だけがいる。大きな波や小さな波が、前後左右から寄せてきて、奈美は揺れる。からだの奥から響きが伝わってくる。ジュクジュク、ジュクジュク、泉はあふれつづけていた。からだは汗ばむ。頬が燃えているのが、ちょっと肩が触れただけでわかる。
(これがわたしの手ではなく、すてきな王子様の手であったなら…)
奈美は夢想する。自分の手ではない。好きな人の手なのだ。
(ぁ、ぁ、ぁ、ぃぃ…)
ふいに、いちばん敏感な花の芽をしごきたくなって、親指を当てた。
「あっ」
声が出た。刺激が強すぎたのだ。親指を芽からひとまず離して、愛撫をつづけた。