序章〜第1章-3
第1章
夜の十一時、奈美はノートを閉じ、参考書を伏せる。窓のカーテンがきちんと閉まっているか確かめた。ベッドに新しいシーシを敷く。たるみがないように、指で伸ばして丁寧に敷く。
そのとき、夜空から誰かが見ていてくれたら、いいのにと思う。誰かに見られていると想像しただけで胸はときめく。男性に見られたい。密かな願望があった。
二年前の夏、夜中に階段を下りて、父と母の寝室にそっと近づいた。あのとき、母のからだのなかに、父のペニスが入っていたのだろうか。母のあえぎ声が聞こえてきた。淫らな声だった。セックスって気持ちいいんだ。父と母のいとなみから、セックスに興味を覚えた中学三年の夏、奈美は初めてオナニーを体験した。自分の指で自分を愛撫することの心地よさを知ってしまったのだ。
後悔はしていない。オナニーに害はないと医学的に証明されている。彼氏ができるまで、自分の指を彼氏の指と思って、愛撫したい。素敵な男性に愛されるその日までの代替え行為なのだと自らに言い聞かせていた。
自分の部屋から一階に下りて、洗面所で歯を磨いた。朝の歯磨きより、夜の歯磨きが効果的らしい。ゆっくり丁寧に歯を磨いて、洗顔フォームを付けて、顔を洗った。家族でテレビを観る居間から、父と母の声が聞こえてきた。楽しそうな声だ。今夜もワインを飲みながら、洋画を観ているに違いない。父・雅文は43歳、母・良美は39歳。二人は今夜、愛しあうのだろうか。一週間に一、二回はセックスしていると推測していた。
縁側に出て、干してあったピンク色のネグリジェを取り込んでから、部屋に戻った。クローゼットのカーテンを開けて、ランジェリーケースから、純白のネグリジェを出して、ピンク色の方を畳んでしまい込んだ。そして、部屋に鍵を掛けた。
今夜は白にしよう。シースルーのネグリジェをベッドの上に置いた。
大きく背伸びをしてから、ノースリーブのボーダートップスを脱いだ。クーラーの冷気が乳首に当たって、瞬間に開放感が訪れた。膝丈の台形スカートも脱ぐ。そして、木綿のショーツを足首から抜いて、全裸になった。
部屋の隅にある姿見のカバーを取って、鏡の面の角度を変える。裸の全身が写った。ボヨヨンした乳房に見とれてしまう。典型的なナルシシズムだ。自分でも思う。学校でも級友たちに「奈美はオナルでしょ?」と言われたことがあった。