カノジョノキモチ-5
数日後、ミクから電話が来た。
彼女からの電話は、これが初めてである。ミクは携帯電話を持っていなかった。
自宅にある固定電話のみだ。
何かあった時にと、僕は自分の携帯番号をメモに書いて渡しておいた。
渡した時のミクの対応は実に素っ気ないもので、実際電話は全くかけてこなかった。
――でもメモ、一応持っててくれたんだな。
電話に出ると、あの……と申し訳なさそうなか細い声が一言聞こえた。
僕はそれだけで、彼女がどういう状態なのかもう分かった。
あの真面目で自尊心の高そうな彼女が、僕に頼みごとをしようとしたのだ。
僕にしか、頼めないこと。そのあたりの男には、頼めないこと。
悪い気はしない。
今から行くから、とだけ伝えてミクの自宅へ向かう。
「その……ごめん、なさい」
「別に、いいさ。電話してくれて、嬉しかったし」
ミクは制服姿だった。学校から帰って、すぐに連絡したのだろう。
僕は、彼女の家に来る途中にまた夕食の材料を買ってきていた。
彼女は心苦しそうに、僕の顔をちらと見ては、うつむいていた。
「ご飯、また作ろうか?」
「……ごめん、今日はちょっと、その……」
「そっか。僕はどこか、横にでもなった方がいいのかな?」
「うん……ごめん」
身長は平均より少し高いくらいだが、彼女は逆に少し低いくらいだろうか。
このままでは、彼女は僕の首元に届かないのだ。
僕は、彼女の寝室に促され、ベッドに横になった。
上に、泣き出しそうな彼女の顔があった。最初に会った時と、同じ顔だ。
「そんな顔、しなくてもいいのに」
「だって、わたしはあなたを傷つけてしまうのに」
「傷のうちに、入らないよ」
「でも……」
「ほら、いつでもいいよ」
「……あの、少し目をつぶってて」
僕は、言われたとおり目を閉じた。彼女が近寄る気配がした後、ごめんねと声がした。
首筋に痛みが走った。でも、この痛みはもう知っている。どうという事はない。
こんな事で彼女が救われるなら、いくら吸われてもいいと思った。
しばらくすると、痛みは止んだ。
目を開けると、彼女が切なそうな表情をして僕を見ている。