カノジョノキモチ-4
週に一度ほど、ミクの家に上がり込んだ。
最初は渋っていたが、彼女なりに色々考えた挙句にそうしてくれるようになったのだ。
僕が本当に彼女のことを口外すると思ったのだろうか。
彼女との関係はつい最近突然出来たので、そう思われるのも無理はない。
だが、誰とでもというのは、彼女にとってやはりマズいはずだ。
どこかでバレて、事が大きくなってしまうに違いないからだ。
ミクの一人暮らしについて聞いてみた。
両親は、どこか別の場所で眠っているという。あまり、深くは話さなかった。
眠っているという意味が、言葉通りの意味なのかはよく分からないが、この部屋で一人暮らしなのは確かなようだった。彼女は嘘や冗談を言う性格ではないのだ。
彼女のアパートは質素で、必要最低限のものしか置いていない。
店売り弁当の空き箱が、目についた。
自炊しないのか聞くと、得意ではない、という事を少し恥ずかしそうに言った。
これは、ポイントが稼げそうだ。僕は、料理が得意なのである。
野菜炒めでも作ってあげよう。
炊飯器はあったが、使っている気配がない。米も、米びつもなかった。
米を炊いたことがあるか聞くと、うつむいた。得意ではない、か。
材料をひと通り買ってきて、米炊くのは簡単だからとやり方を教えた。
彼女はメモを取りながら、目を輝かせて熱心に聞いてくれた。
実際彼女に米を炊いてもらい、僕は他の料理を作った。
出来上がると、彼女は子供のように笑って喜んでくれた。
彼女のこういう笑顔は、この時初めて見たと思う。屈託のない、純粋な笑顔。
思わず見とれていると、それに気づいたのか、彼女は顔を赤くして横を向いた。
料理は、すべて綺麗に食べてくれた。うまいか聞くと、まあまあ、と応じた。
好き嫌いはないようだ。にんにくは大丈夫なのか尋ねると、ムッとされた。
たぶん、大丈夫なのだろう。
彼女は普通に学校に通うし、たしかA女子高はカトリック系だよな……。
陽の光や、十字架などというものも、おそらく問題ないのだろう。
そんな事を考えていると、彼女がジロッと僕を咎めるように睨んでいた。
……まさか、心の中を読める訳がないよな。
ミクは自分の正体について、嫌悪している節があった。
そして、彼女の正体は僕にもよく分からないままなのである。
何度か通ううちに、僕はますます彼女に魅かれていく。
そして、いくらか疑問が出来た。
僕の前に誰か他の男の血を吸ったのだろうか。
その後に、男と関係を持ったのだろうか。
それは、なかなか直接聞くことの出来ない疑問だった。
下手に聞くと、二度と会ってもらえなくなるかもしれない。
素の彼女が極めて真面目で内気で純粋で不器用なのは、もう知っている。
そんな彼女が、他の男に自発的に接触するとは、考えられない。
でも、ミクの中には別の得体の知れない何かがあった。
僕以外の誰かと交わっている彼女を想像すると、心の中にどす黒いものが渦巻いてくる。
たとえ、彼女がいつもの彼女でなかったとしても、だ。
それにしても、僕はこんなに独占欲の強い男だったのだろうか。
まだ知り合ってから間もないのに、ミクの事ばかり考えている気がする。
彼女は、僕についてどう思っているのだろうか。