カリア-1
庭で遊んでいる少女たちは、皆別々の顔をしていたが、いずれも目を見張るほどの美少女ばかりだった。
年代も少しずつ違うようで、同じ年令の者はいないかもしれない。
やがて、幼いミアは屋敷の近くの日陰に腰掛けている老婦人の所に連れて行った。
メッセージで見たのと同じ75才のミアだった。
テーブルに飲み物があり、向かいの椅子に座ると飲み物を勧められた。
飲み物は電子的な映像なのだろうが、きちんと触感もあり味も香りもあった。
老婦人のミアは言った。
「これを飲んでも実際に水分や糖分が補給された訳じゃないから気休めなんですけれどね」
ミアはそう言うと笑った。メッセージの画像よりも元気そうなので、あと僅かで死ぬ人間には見えなかった。
「ハヤテさんは冷凍冬眠していたときと同じ顔をしてますね。
アバターの中の顔を私は見ることができるんですよ。
私もアルバ博士の電脳知識がありますからね。
生きているときは、膨大な知識や技術は、とてもチンプンカンプンで覚え切れなかったけれど、電子生物になってしまったら、一瞬で自分の物にできるから便利ですね」
ミア老婦人はミア幼女にクッキーを与えると、クッキーを食べた幼女は目の前で消えた。
ミア老婦人は驚く私を見て声を立てて笑った。
「おほほ……、そんなに驚かないで下さい。
私が亡くなった9年前より更に技術は進歩しているのですよ。
後でハヤテさんにも最新技術の更新をしてさしあげますわ。
その前に紹介したい子がいるのです。後ろを向いてくれますか」
私が後ろを振り返ると1人のの少女がにこやかに立っていた。
肩まで伸ばした髪はマリン・ブルーに染められていて、瞳は深い緑色をしていた。
襟ぐりの広いトップを着ていて長い首にはくっきりと筋が通っていて鎖骨の上の溝が深く陰を作っていた。
「この子も電子生物です。カリアと言います。
あなたにお仕えさせるために私が作りました。
この子はDゲーム以外のあらゆる空間に現れることができます。
顔が気に入らなければ、後でお好みの顔に修正しますが、この顔が今一番人気の顔立ちですので、慣れていただければと思っています。
カリア、ハヤテさんを屋敷内にご案内して」
言われるとカリアは私の手を取って、椅子から立たせた。
私はまだミアともう少し色々な話を聞きたかったが、カリアはその私の心を見抜くようにこう言った。
「ハヤテさま。おばあさまに聞きたいことがあれば、私に聞いて下さい。
おばあさまに答えられることなら、私も答えられますので」
「そうか……、それなら聞くけれど、私が冬眠に入った後家族はどうなった?」
「生前に離婚した奥様以外なら、ご長男のモルクさまが35才でその長男のトッキーさまが7才、長女のアリナさまが3才でしたね。
それとご長女のナディアさまが32才で、そのご長女のロナさまが2才、ご長男のハザンさまが0才でした。その先を聞きたいのですね?」
「ああ、そうだ。」
屋敷の中に入ると立派な部屋に案内された。
天井は高くシャンデリアが吊るされ、天蓋つきのダブルベッド。
そしてトレーニング用具が並んだ運動コーナー。
格闘技の試合用のリングまであった。
カリアは深緑の瞳を私に向けて笑顔を絶やさずに言った。
「ここはハヤテさま用におばあさまが用意したお部屋です。
いつでもいらして下さい。
続きを説明します。記録映像をご覧ください」
すると部屋の風景は消えて、私の目の前にまるで生きているかのような私の子孫の姿が現れた。
それを見ながらカリアの愛くるしい甘い声が聞こえる。
「……40年後、今から80年前のご家族です。
ご長男のモルクさまは75才、ご長女のナディアさまは72才。
お孫さんのトッキーさまは47才、アリナさまは43才、ロナさまは42才、ハザンさまは生きていれば40才ですが2年前に亡くなられました。
これが38才のときのお姿です。次にひ孫さまたちのご説明を続けますか?」
「ああ、頼む。いよいよミアさんが出てくるのかな?」
また新しい人物が現れた。1人ずつカリアがその人物の肩に手を当てて紹介している。
「まずトッキーさま方のひ孫さまでロッチさまが25才男性ですね。
パルマさま20才女性です。
アリナさまは生涯独身でしたのでひ孫さまはいらっしゃいません。
ロナさま方のひ孫さまはヨナさま23才女性です。
その弟さまのバッキーさまは19才です。
そしてハザンさまの忘れ形見のミアさま4才です。」
私は先ほど門に出迎えてくれた幼女の姿をそこに見た。あの子は4才だったのか。
それにしては大人びて見えたなと思った。カリアはその後の映像を打ち切った。
「おばあさまがこの先はこの次の楽しみにしていただくと言ってましたので、ここまでにさせて頂きます。
一応お伝えしなければならないのはおばあさまがハヤテさまの最後の子孫ということになります。
それはひ孫の皆さんは誰1人として結婚しておらず、子孫を増やす行為をしていなかったからです」