甘えるのが下手っぴ。-3
“さみしい”
“心細い”
“行かないで”
そんなことすら言葉に出せない郁。
(・・・妹とちがって、甘えるの下手な子だな。)
先ほどの郁を思い出して顔がほころんでいることに気づいたけど、そんな自分に意味がわからず、きゅっと顔を引き締めた。
簡単にうどんを作り上げ郁を呼びに行こうと顔を上げると、なんだかふしぎな気もちになった。
当たり前だけど、部屋の間取りがすべて逆だ。
木製の家具に、籐の籠。
コスモスの写真を引き伸ばしたキャンバスに、シェルのタイルで縁取られた丸い鏡・・・
どれをとっても郁らしくて可愛らしい。
部屋全体も、郁の匂いがする。
(郁に抱きしめられてるみたいだ・・・)
その香りをすっと吸いこみ寝室のドアを開けると、熱で眠りが浅いのか、郁はすぐに目を覚ました。
「わぁ・・・おいしそう。」
『卵とネギ入れただけだよ。大げさ。』
こんなんで喜んでくれるなら、もう少しまともなモンでも作りゃよかった。
テーブルに肘をつきながら郁の食事の様子を見て、そんなことを思い目をそらす。
『―――――あ。』
そらした視線の先に冷蔵庫があり、一応用意していたものを思い出した。
ちょっと待って、と立ち上がって冷蔵庫を開ける。
『梅干し刻んどいたけど、入れる?口の中さっぱりするよ。』
だしは取り置きして冷蔵庫に入れてあるから。あとでそれでおかゆ作るよ。なんて主婦じみたことを言っていると、“お母さんみたいですね”と言って郁が笑った。
その表情がいつも以上にかわいくて、なんでもしてやりたい、なんてばかみたいなことを思った。