怒り-1
朝、玄関を開け日差しを裂けるように俯き、門を出た佳奈は、そこで足を止めた。そこから足が動かないのだ、足を震わせ、前に進もうと必死になって足を上げようとするが上がらない、昨日は仮病で休んだが、今日休めば堀田の怒りを買ってしまう、それは出来ない、嫌でも学校に行かなくては、頭で必死に思うが体が言うことを聞かない、もがいてももがいても、佳奈の体は前には進まなかった。
「佳奈」
その呼び声にびっくりして振り返るとジュンが立っていた。ジュンは佳奈に近づきながら言った。
「佳奈、学校に行くの辛いんじゃないの?」
佳奈は口を震わせ言った。
「ジュンちゃんには関係ないでしょ」
「関係あるよ。僕にとって佳奈は大切な人なんだ、そんな人の悲しむ顔なんて見たくないよ、だから僕は佳奈を守る」
「何よそれ、私は悲しんでなんか」
「悲しんでるよ。今だって体震えているじゃないか、
いくら学校で嫌な事があっても普通震えないよ」
「ふ、震えてなんかない、私は普通よ」
「もう、誤魔化さなくて良いよ。堀田だろ」
ジュンの口から出された名前に佳奈は凍りついたように固まる。知られてほしくなかっジュンに知られてしまった。
黙りこみ、俯く佳奈にジュンは肩にそっと手を置いた。
「堀田との間で何があったかは知らない、だだ鈴木に佳奈が元気じゃないのは堀田が原因じゃないかって言われただけだ。鈴木に言われた時はそんなに深刻じゃないと思ったけど、今の佳奈の姿見たら、何とかしないといけないと思った。
原因は堀田何だろ?」
その問い掛けに佳奈は答えなかった。俯き、顔を合わせない佳奈に、ジュンは優しく言った。
「何も言わなくて良いから、ただ頷くだけで良いから、答えて、堀田と別れたい?」
少しの間の後、佳奈はゆっくりと小さくコクりと頷いた。
「分かった。今日、必ず堀田と別れさせるから、もう二度と佳奈に近寄らない様にするから、大丈夫。後は僕に任せて」
佳奈は小さく頷いた。
ジュンは佳奈の頷きを見ると続けて言った。
「佳奈、お願いがあるんだけど、今日は学校休んでくれないか?明日にはすっきりさせるから、今日だけ」
「……今日だけ?」
佳奈の声は震えていた。
「うん、今日だけ」
佳奈は小さく頷いた。
「それじゃ言ってくるよ。また明日学校で」
ジュンはそう言って佳奈から別れた。
ジュンが去った後、佳奈はガクガク震える足に堪えることが出来ず崩れ、涙が止まらなかった。
どうしようもない虚しさと、ジュンの優しさが佳奈の胸をぐちゃぐちゃにしていく。ジュンにありがとうと言いたかった、でも言葉が出てこない、ジュンにごめんねっと謝りたかった、でも言葉が出てこない。
「……ジュンちゃん、ごもんね、本当にごめんね……」
佳奈の言葉はもうジュンには届かない。弱い自分を佳奈は歎くが、あまりにも胸が一杯で、ただ泣き続ける事しか出来なかった。
学校に向かいながら、ジュンは佳奈の姿に酷くショックを受けていた、と同時に佳奈を傷付けた堀田が憎くてどうしようもない怒りが込み上げた、自分を押さえられないかもしれない、この件で全てを失うかもしれない、
それでも良い、そうジュンは覚悟した。
学校に到着したジュンは、深呼吸して校門を潜り校舎に入ると、一旦自分の教室に入り、席に着き小声で自分に言い聞かせた。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け」
堀田に会った瞬間殴り掛かるかもしれない自分の心を落ち着かせようとするが一向に落ち着かない、いっそう会った瞬間に殺してやろうとも思うが、まずは話さなくてはと自分の怒りを必死に押さえ付ける。