怒り-3
「堀田!別れないなら、お前を殺すぞ」
「は?お前何に言って」
ジュンは堀田が言い終わらないうちに勢いよく殴り掛かった。
ドコ!
「何すんだテメー」
堀田が怒りを表にするが、ジュンは続けて殴り掛かる。
ドス、ドス!
堀田は最初、いきなりの攻撃で面食い応戦する事が出来なかったが、直ぐに立ち直りジュンとの殴り合が始まった。
周りにいた女子達は悲鳴を上げながら、ジュンと堀田から逃げる様に離れ、男子達はやじ馬のように二人の周りを囲うい群がった。
この喧嘩ジュンにとっては劣勢であった。喧嘩をしたことがないジュンに殴り合いのノウハウが分かる筈もなく、堀田の拳が面白くジュンに入って行った。堀田の蹴りがジュンの腹に入り、蹴りのいきよいでジュンは飛ばされ、掃除道具が入っているロッカーにたたき付けられた。
ジュンは蹴りが溝内に入り、息が出来ず腹を押さえもがいた。堀田は嘲笑いながらゆっくりとジュンに近づく、ジュンは咳込みながら必死に息を整えた。
絶対に勝たなければならない、卑怯だろうが、何だろうが、堀田を潰さなければ佳奈は立ち直らない、ジュンは焦る。
とっさに後ろにあった掃除道具のロッカーを開け、そこからT型箒を取り出した。
「殺す!」
ジュンの異常なまでの叫びに周りは青ざめた。
ジュンは箒の柄の部分を堀田に向け、竹刀のように構えた。ジュンは狂気のように堀田を睨みつけ、堀田はその睨みに畏縮した。それでも堀田は恐れているそぶりを見せず、ジュンに吠えた。
「そんなもん使おうが、変わんねーよ、ほら来いよ」
「堀田っ!」
ジュンは瞬時に堀田の間合いに入り、太もをも箒で叩き付けた。
「っが」
堀田は痛みに耐えられず崩れ落ち、太ももを抑える。
周囲はこれで喧嘩は終ったと思った。堀田は動く事は出来ないし、ジュンはその一撃から冷静さを取り戻しているように見えたからだ。ジュンの近くに居た男子がジュンに、
「一瞬だったな、スゲーよ」
と興奮した口調で話し掛けるとジュンは囁いた。
「まだだ……」
「え」
「まだ終ってない、これからだ」
男子はジュンが何を言っているのか理解できなかった。ジュンはそのまま堀田に近づき、男子生徒は傾げる様に言った。
「おい、ちょっと待てよ」
ジュンは涼しい顔で箒を振り上げ、横たわる堀田の頭目掛けたたき付けた。
バシン!
鈍い音が響いた。周りにいた全ての生徒がジュンの行動に困惑し、止めにかかる。だがジュンは止めにかかる男子達も箒でたたき付けた。
皆は青ざめた。ジュンは叫びながら堀田をたたき付ける。
「止める奴も殺す!手だしするな」
その叫びに男子達は固まり、身動きが取れなくなった。
堀田は丸くなり、何とか逃れようとするが、ジュンの狂気の攻撃になすすべがない、次第に泣きながら、ジュンに縋った。
「や、止めてくれ、もう止めてくれ、謝るから、謝るからー」
情けない涙声で堀田はジュンに命乞いのようにせがむがジュンは聞く耳持たず、更に痛め付けた。
「堀田、彼女を部落者と言ったな。許さない、殺す、誰が止めようと、二度と彼女の目の前に合わせない、お前を殺す」
ジュンは箒を左手に持ち、空いた右手で近くにあった机を力の限り持ち上げ、それを堀田目掛け投げつけた。
ッガン!
「ぎゃぁぁ」
酷く鈍い音と共に、堀田の叫びが響く、机は堀田の脇腹に当たり、堀田は更にうずくまった。
「死ね、死ね、死ね!」
ジュンは堀田を強引に仰向けにすると、箒の柄の先端を堀田の喉に突いた。
「が…がが」
喉が潰れる音がした。
周りの生徒達はジュンに恐怖を覚えた。佐々木ジュンは堀田を殺す気だと、周りは少しずつジュンと堀田から後退りした。
と、そこにようやく教職員が入り込み、ジュンを押さえ付けた。
「離せ、邪魔をするな!」
異常なまでのジュンの狂気に教職員も驚きを隠せなかった。
「佐々木、落ち着け、落ち着け!」
「離せ、邪魔するな」
教職員一人では押さえ付けられず三人でようやくジュンの動きを止めた。
教職員はそのままジュンを堀田から引き離し、別室へと連れ出した。ジュンはもがきながら叫んだ。
「いいかお前ら、部落者と言う奴は俺が許さない、部落者扱いする奴は何人いようが俺がこの手で殺す、必ず殺す、分かったか!」
ジュンはそう怒鳴り付けながら、別室へと連れ出された。