第3章-2
「光一さん?」
書斎の光一さんに声を掛けます。
「何?」
「ちょっと、夕飯の買い物に行って来るね…」
「あぁ、気をつけてな」
仕事に集中している光一さんは、私に何の疑念も抱いていない様子でした。
「ごめんなさい…」
私は、思わず、小さな声で呟いてしまいます。
ピンポーン…
峰岸さんの部屋のインターホンを鳴らすと、すぐにドアが開き、峰岸さんが出てきました。
「待ってましたよ、奥さん…さあ、どうぞ…ふふふ…」
無言で中に入る私。こんな卑劣な男の言いなりになるしかない自分が情けなくて、悔しくて仕方ありません。
「どうしました?奥さん…そんな怖い顔して…奥さんには似合いませんよぉぉ…ふふふ…」
リビングのソファに座って、峰岸さんと向かい合っています。私に向けてくる視線には、手篭めにした女に対する男の卑劣さと厚顔さが滲み出ていました。
「酷いです。あんな写真送ってくるなんて…。それに、今日は光一さんが家にいるんです」
せっかくの光一さんの休日。
今日だけは何事もなく早く家に帰りたいという思いで、頭の中はいっぱいです。
「えぇ、知ってますよ…今朝、ご主人に会いましたからね…でも、休みといっても、朝から仕事しているんじゃないですか…?奥さんのその素晴らしい身体に見向きもしないでねぇ…ククク…」
光一さんに嘘をついて家を出てきて、後ろめたさでいっぱいの私とは対照的に、峰岸さんは、あくまでも余裕の態度です。
「私に、どうしろと、言うんですか?」
「おや?話が早いね…奥さん」
「お願いです。今日は帰らせてください」
「そんなに、ご主人にバレるのが怖いのですか?そうですよねぇ…旦那以外の男…この私のモノで、あれだけ逝きまくってしまったのですからねぇぇ…奥さん…ククク…」
「お願いです…帰らせて下さい…」
牡に支配され、屈服させられた牝の立場を、今さらながらに味わわされてしまいます。
「ふふふ…私のお願いを聞いてくれたら、奥さんの願いも聞いて上げますよ…」
「お願いって…何を…」
厭らしい目つきと口調から峰岸さんの要求は分かりきっていましたが、私は、探るような声で聞き返すのでした。
「なあに、簡単なことですよ。奥さんが私を射精させてくれればいいんですよ…射精をね…ふふふ…」
「……」
私は峰岸さんから顔を背けます。それは、予想通りの厭らしい要求に対する拒絶の意思表示のつもりでした。