疑似体験-1
「そんな緊張するなってば」
傍らに身を置く遼介が、祐一に対して無邪気に言ってきた。
「別に、俺は……」
祐一はそんな自分を何とか取り繕おうとする。しかし実際、高まるばかりの緊張で身体はすっかりガチガチになっていた。
その時、何の予告もなくいきなり遼介が右手を伸ばしてくる。
「っ……!」
股間へと触れてきたその手に、祐一は思わず声を上げそうになった。
「大丈夫だって、こんなのただの遊びなんだから」
「わ、分かってる……」
添わされるその感覚に、今から自分達がしようとしている行為が、いよいよ生々しいものとなって祐一に実感させられていく。
日曜日の昼下がり、こんな間抜けな事をしているのは自分達くらいだろうと、祐一は遼介が提案してきた『遊び』に乗ってしまった事をすでに後悔してならない。ちょうど家族が皆出払って留守なのが幸いである。もし部屋でこんな事をしている現場を目撃されようものなら、恥さらしもいいところだ。
だがそんな祐一とは対照的に、遼介はすっかりノリ気で楽しそうな様子であった。
「祐一がそんなに嫌だっていうなら、止めろうか?何も無理してまで大人の階段上らなくたっていいんだからさ」
こちらの動揺を見透かす様に、遼介はどこか挑発的に言ってくる。
「無理してねーよ!」
「じゃあ、続けてもいいんだな?」
「……ああ」
「男に二言はないよな?」
「ないって!」
遼介のペースに流され、ムキになった祐一は後に引けなくなってしまう。
そんな祐一に対し、まるで誘導尋問に成功したとばかり、遼介の口元がわずかにほころぶ。
「なら、このまま続けるぞ」
何はともあれ祐一の最終的な合意を得た遼介は、そのまま股間へと伸ばしていた手を動かし始める。
ズボンと下着越しに伝わってくるその蠢く様な感触に、全身がグッと過剰なまでに力んでいく。腰を捩らせたくなりそうなこそばゆい感覚、そして何より堪らない恥ずかしさが祐一の中で沸き起こる。
(何してんだよ、俺ら……)
きっかけは、家に遊びにやって来た遼介との間で何気なく始まったエロ話。小学六年生の自分達にとってはまだまだ未知なる領域ではあったものの、しかしそれだけに一度話題に火が点けばまさに興味の尽きぬものがあった。しかしどうやら遼介は自分以上に変なテンションを上げてしまったらしい。突然、『セックスごっこ』なるものを誘ってきたのである。
遼介の言葉に、祐一も最初は妙に好奇心を擽られた。だが実際、遼介と身体を寄せ合いながら股間を弄られるという今のこの状況の中で、大人の世界への憧れや欲求が満足するどころかむしろ祐一は変に冷静さを取り戻していく。