第2章-2
「これでもですか?」
峰岸さんはポケットから何かを取り出し、私に差し出してきました。それは、数枚の写真でした。
(えっ…!?何…これ…)
それを見て、ショックの余り声が出ませんでした。そこには、峰岸さんに抱きついたり、キスしようとしている私が写っていました。
「私もね、できれば奥さんのお誘いに応えたかったのですが、会長の私が懇親会に戻らないわけにはいきませんからね…しかし、奥さんも嬉しそうな顔していますよね…ふふふ…」
「わ、私…何にも覚えていないんです…」
すっかり動揺してしまい、口がうまく回りません。
「えぇ、えぇ、分かっていますとも。相当酔っていましたからねぇ…ですから、今日、改めて奥さんのお誘いをお受けしようと思って来たんですがねぇ…ふふふ…」
「私、そんなつもりじゃ…」
「えっ?私を誘ってくれたんじゃないんですか?」
峰岸さんの意外そうな口調と表情は、わざとらしさを感じさせるものでした。
「当たり前です。私には主人がいるんです。それなのに峰岸さんを誘惑だなんて、誤解です」
「そうだったんですか…」
また、わざとらしく残念そうな表情をする峰岸さん。
「しかし、それは困りましたね…」
「何が…ですか?」
次は何を言い出すのかと不安が高まります。
「いやね…奥さんが酔うと、どんな男でも誘惑するような女性だとしたら、他の住民にも知らせないといけないと思いましてね」
「えっ?何言ってるんですか。私はそんなことしません」
つい声を荒げてしまいます。
「えぇ、えぇ…私だって、奥さんのような真面目できちんとした方がそんなことをするとは思いたくありませんよ。でも、事実、酔って私を誘惑したわけですよねぇ…」
対照的に、峰岸さんの口調はどこまでも余裕です。
「ご存知のとおり、このマンションは社会的地位もきちんとした方とその奥様のお二人住まいという方が多いんですよ。その中に奥様のような若くて綺麗な方が次々と男性を誘惑するとなると、マンションの風紀が乱れると思いましてね。やはり、会長としては見過ごすとはできませんからねぇ…。当然、ご主人にも一言ご相談する必要があるかもしれませんねぇ…」
「私は…そんな女じゃありません…」
「では、相手が私だから誘ったんですね?」
「そ、それは…」
「どっちなんですか?」
どちらでもありません。
ただ、酔って自分を見失ってしまっただけなのです…。
だからと言って、私がふしだらな女だなんて周りに思われることは耐えられません。それ以上に、光一さんにだけは、そんな女だなんて絶対に思われたくありません…。