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「カオル」
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カオルD-1

「こんなの貰えないよ…」

 真由美は自室で一人、起きた出来事を嘆いた。ひとみは、どんな所以でこんな真似をしたのか。
 少なくも友達のつもりだった。なのに、買い物に付き合ったくらいでこんなことをするのは度を越している。

 ──じゃあ、自分は友達ではないのだろうか?

 私案が、おかしな方向へと傾きだした。帰結させるのは性急すぎる。真由美は一旦、思考を打ち切った。

「…とにかく、何処かに隠さなきゃ」

 部屋の中を見回し、隠し場所を選定する。タンスや押し入れ、机などと思いついたが、すぐにそれらは否定された。
 自分がいない時、出入りする母親に見つけられそうだ。

(何処かに…)

 その時、壁角に立てかけている姿見の鏡が目に入った。

「ここなら!」

 鏡を脇へとずらしてみる。裏側にあたる床下は、うっすらと埃が溜まっている。誰の手も入っていない証拠だ。
 真由美は、貰った袋ごと鏡の裏に置いた。これで、ひとまず安心だ。

(明日、ひとみに話さなきゃ)

 一段落した途端、身体が空腹を訴えた。真由美は、制服から部屋着に着替ると、階下へと降りていった。

「あれ?どっか出かけるの」

 リビングへ向かう途中、廊下で須美江と出会した。右手に、クルマの鍵を握っている。

「薫を迎えに行ってくるから、留守番お願いね」
「えっ?薫、いないの」
「今日からバレーの練習やってるのよ」

 須美江は「よろしく」とだけ言葉を残し、慌ただしく出かけて行った。

「なあに?あれ」

 静寂の降りた家。真由美は玄関を見つめて佇む。朝の喧嘩など、頭から消えていた。

「あの子、大丈夫かしら…」

 代わりに浮かんだのは、薫のことだった。
 昨夜の話では、あまり乗り気じゃない様に見えた。
 それが平日も練習とは。正直言って、身体を壊しわしないかと心配になる。

(なんで、急にバレーなんか…)

 いくら友達作りのためとはいえ、何故、母親はバレーを選んだのか。
 額面通りの理由なら、もっと薫の性格に合った習い事はあっただろうに。

「やめた…」

 真由美は、思考を推し進めるのを止めた。

(また気分が落ち込んじゃう)

 さっきもそうだが、推論を帰結させようとすると、おかしな結論を導き出しかねない。

「シャワーでも浴びよう」

 真由美は、再び自室へと戻って行った。






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