カオルD-9
「でも、わたしも返されても困る。あなたに対する感謝の気持ちを、踏みにじられるみたいだし」
「う……」
芝居がかった言い回し。真由美は、反論できない。
「二つの異なる意見は、折衷案を導き出すのが一番いい方法だわ。だから、わたしも何かプレゼントを要求すれば解決でしょ?」
どう考えても飛躍した説諭であるのだが、どう切り返せばいいのか真由美には解らなかった。
「あれに見合うほど、わたしお金持ってないし…」
「そんなことどうでもいいわ。あなたが祝ってくれることが嬉しいの」
そう言ったひとみは、真由美の肩に手を置いた。優しく微笑んでいる。
「…そ、そういうことなら」
「本当にッ、ありがとう!」
受け入れた真由美を、ひとみは抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!」
「よかったァ!」
結局、真由美の思惑は叶わず、逆に変な約束を交わすことになった。
日曜日の午後。
「じゃあ、お留守番頼むわね」
「うん、いってらっしゃい!」
子供逹を残して、須美江が出かけていった。PTAの会合に出席するためだ。
その日は晋也も、同僚とのゴルフに出かけていた。
「さてと…」
真由美はリビングに向かった。誰もいなくなった開放感を満喫するために。
「よっと」
リビングのテーブルに、お茶とお菓子、それに漫画本を置いた。
テレビのスイッチを入れた。これで、しばらくは動かないでいられる。
「ふう〜」
一見、怠惰と思われるが、真由美にとって大事な時間だ。
普段は勉強漬けの毎日のため、気持ちも身体も、かなりのストレスが溜まってしまう。
それらを解消するのが、休日にダラダラすることだ。
普通なら、友達と出かける方がストレス解消になると思われるのだが、彼女は違った。
友達と遊ぶのは楽しい一方、気を遣わねばならないが煩わしい。そんなものは学校生活だけで充分である。
「さすがに日曜の昼間…ろくな番組やってないわ」
真由美は、独り言を言いながら、慌ただしくチャンネルを切り替える。
「…!」
すると、画面にある人物が映し出された。そのユニークなパーソナリティーで話題の、ニューハーフと呼ばれる男性だった。