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「カオル」
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カオルD-11

「次はこれね」

 ボーダーのハイソックス。履いてみると、太腿の半分ほどまで覆った。

「お姉ちゃん、これって…」
「うん。今日は、ちょっと志向を変えてさ。こんなの着てみようよ」

 真由美がさらに出してきたのは、長袖のシャツと丈の短いスカートだった。

 薫は、驚いた様子だ。

「ボ、ボク、そんなの似合わないよ」
「大丈夫だってッ。絶対似合うから」

 何度も拒否するが、その度に真由美のごり押しに遭い、薫の想いは却下される。
 しまいには、もう抗う気持ちも消え失せていた。

「ヨシッと!」

 ネイビーのシャツに、黄色のチェックのスカート。

「やっぱり似合ってる!」

 真由美は目を輝かせる。その様は、着せ替え人形で興じる幼児のようだ。
 だが、薫の方は嬉しそうじゃない。いつもの感じと、かけ離れていたからだ。

「お姉ちゃん、やっぱり脱ぐ」
「ダメだって!」

 慌てて真由美が止めた。

「まだ、ウィッグ着けてないじゃないッ」
「でも…」
「ワンピースは、もう少し暖かくなって着せてあげるから」

 真由美に絆されて、薫は思い留まった。

「じゃあ、被せるわよ」

 ウィッグが頭にのった。頭頂部に、引っかかるような感触があった。

「ほら、見て」

 真由美が、姿見の前に薫を立たせた。

「これって…」
「すごいでしょ」

 薫は息を呑んだ。
 鏡に映ったのが、自分とは思えなかった。

「これでリップを付ければ、完璧に女の子よ」

 心の奥に、焔が燃え上がった。感じたことの無い感覚だった。

 今までも女装はしていたが、それは、ただ“女の子の服を着てみたい”というだけで、着れば満足していた。
 それが、服のみならず、下着から髪型、化粧をと全身を施した途端、自分が本当の女の子のように思えた。

 これこそ、薫が望んでいたことだった。


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