再会-1
幾ばくかの歳月が流れシャンレンの許に旅に出ていた天人が立ち寄った。
シャンレンは岩の上で瞑想していたが、天人の来訪を快く迎えてくれた。
彼は遠い眼差しをして語った。
「イーゴアはファン・リーリの提案で敵方ウーワン国のフーチャ王に献上された。
イーゴアと一緒にシェンファンも献上されたがフーチェが愛したのはイーゴアだ。
イーゴアは後にスー・シーと言われたあの傾城の美女のことだ。」
「あのスー・シーがイーゴアだったのですか。では美人計ですか?」
「その通り、フーチェを美人で篭絡して内部から国を崩壊させるという計画だった。
だが、ファン・リーリはスー・シーを献上する前に彼女と恋仲になってしまったのだ。
ファン・リーリはこのことを自分の王であるユエ国のゴージェン王にも秘密にしていた。重要な国家計画を私情で台無しにしてしまっていることになるからだ。
元より田舎娘のスー・シーにもそんな重要な責務は荷が重すぎたと言える。」
「では、どうして世間ではスー・シーがフーチェを篭絡して、その国を滅ぼしたと言っているのですか?そしてスー・シーは自分の国に帰っても魔女扱いを受けて生きたまま川に投げ込まれたではありませんか?」
天人は自分が巷間で得た情報との食い違いに戸惑いを隠せなかった。
天人の問いにシャンレンは笑った。
「慌てるでない、忘れたか?
スー・シーと一緒にシェンファン姫も献上されたことを。
シェンファン姫は幼いときから学問を学び武術を磨き、技芸を身につけており、国への忠誠心も大きい子だった。
彼女はファン・リーリにスー・シーと恋仲であることを指摘して、自分も一緒に献上するように命じたのだよ。
そして敵方の後宮に入った後も、自分は常にナンバー2になるようにして、スー・シーに陰で色々と指示していたのだ。
また自分が貴族の姫であることをファン・リーリや他の者たちに強く口止めした。
彼女の名は知られていたから、名前を田舎娘のチェンダンと名乗り身分を隠したのだ。
彼女は一緒に献上された十数人の美女たちの上に立ち、情報を集めて作戦を練り、フーチェの国が内部から崩壊するように画策したのだよ。
そして、目的を遂げて故国に戻った。
だが王のゴージェンがその色香に惹かれ側室としてスー・シーを望んでいることを知って、ゴージェン夫人にそれを教え、国民にもスー・シーが魔女であるかのような風説を流したのもシェンファン姫なのだ。」
シャンレンはそこで一息ついて、天人を見た。
わからぬかと謎かけをするような眼差しだった。
だが、天人にはわからなかった。
「分かりません。
そのため、スー・シーは捕えられ、生きたまま川に投げられたではありませんか。
なぜシェンファン姫はそのようなことをしたのでしょう?」
「そう……スーシーは皮の袋を被せられ、都の通りを引き回されてチャンジエンの川に投げ込まれた……ということになっている。
だが、彼女の顔を見たものがいたろうか?
あれは、シェンファン姫が配下の裏切り者をスー・シーの身代わりにしたのものだ。
それはスー・シーを逃がしてファン・リーリと一緒に暮らせるようにする為だったのだ。」
「しかし、老師の千里眼も大したものですね。そこまで見抜かれるとは」
天人が深く感心してみせると、シャンレンは高笑いしてから洞窟に向かって叫んだ。
「おーい、もういいぞ。出て来たらどうだ。」
天人がその方を見ると、美形の若者が現れた。
どこかで見たような気がしたが、相手は天人に駆け寄るといきなり抱きついて来た。
「私を忘れたのか? 天人どの。私はシェンファンだ」
天人は男装をしたシェンファン姫を見て驚いた。