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天人異聞伝
【ファンタジー 官能小説】

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チェンダン-1

 ここはウーワン国。ウーワン国王フーチェが愛妾スー・シーの為に建てたという湖の宮殿である。
そのホールに敗戦国のユエ国から献上された絶世の美女スー・シーと十数人の美女たちが集まっていた。

 
そのホールの真中に裸身に大量の血を浴びた女が立っていた。
手には血の滴る剣を握っている。足元には二人の男が血溜まりの中に倒れていた。

「チェンダンさま、盥を用意しました。」

チェンダンと呼ばれた血染めの女は二人の男に剣を握らせ、互いに争って絶命したかのように見せかけた。
その後用意された盥に体を浸し血の汚れを取ると、布で体を拭いた。
汚れが取れるとスー・シーにも勝るとも劣らない美女が裸身なまま立っていた。
チェンダンはスー・シーに向かって言った。

「よいか、スー・シー。
そなたは物音と争う声で寝室から出て来て見たら、既にこうなっていたと言うのだ。
他の者はスー・シーの悲鳴で駆けつけたのだ。
お前達はここに倒れている男達のことは知らない。
口を利いたこともないのだ。よいか?」
「はい、チェンダンさま」
「よし、盥を片付けよ。私は服を着てくる。
それぞれは自分の部屋に行くがいい。悲鳴が聞こえたらあつまるのじゃぞ」
「はい、チェンダンさま」

そういうと美女達は宮殿のホールから姿を消した。
ややしばらくすると、スーシーの悲鳴が宮殿にこだまする。
最初に駆けつけたのは宮殿の門前の護衛兵たちだった。
血まみれに倒れている二人の男とそれを見て立ちすくんでいるスー・シーを見て、慌てて報告に走った。


ホールの死体は既に片付けられて、床も綺麗に清掃されていた。
ウーワン国のフーチェ王は愛妾のスー・シーを労わるようにして肩を抱いていた。
周りには十数人の美女達も震えながら立っていた。

「あの者たちは二人の大臣のそれぞれの右腕ともいうべきバイヘイとチンズーではないか。
今回は大臣の代わりに余の供をしてきたと言うに、何故二人は争っていたのだ?」

フーチェは宮殿の中にいた筈の美女たちを見回した。
みんな存じませんとでも言うように首を振った。だが、フーチェは首を傾げた。

「だが、おかしいな。
ホールに入ること自体、余以外の男が入ることは適わない筈なのに、しかも剣を持ったまま何故入ることが許されたのであろう。」

そのときおずおずと1人の女が項垂れて前に出て来た。

「あのう・・王様・・実は私・・ホールでお二人がスー・シーさまのことで何か言い争っているのを聞いてしまったのです。
そうしたらお二人は私を捕まえて、護衛兵に預けている剣を貰って来てくれと頼んだのでございます。
私がそんなことはできないと言うと、スーシーさまの命令だと言えば大丈夫だと言われたので、そのように護衛兵に言って剣を受け取ってお二人に渡しました。」
「そしてそれから、どうなったのだ?」
「わかりません。二人は私は部屋に戻っていて良いと言ったので、その通りにしました。その後スーシー様の悲鳴でここに出てきたのでございます。」
「そうか。後で護衛兵にも聞いて確かめよう。ところでお前の名前は何と言ったかな?」
「チェンダンでございます、王様」
「よく教えてくれた、チェンダンとやら、もう良い。下るが良い。
スー・シーや、あの二人の大臣は普段から仲が悪い。
なんでも競い合おうとしていた。
しかし不届きにもその右腕とも言うべき二人がお前のことを懸想して、命まで奪い合うとは呆れて物も言えない体たらくだ。
あの大臣どももとんでもない者を供によこしたものだ。」


フーチェ王は怒りに震えて宮殿を後にした。
それを見てチェンダンはほくそ笑んだ。だが1人の女を指さし、低い声で言った。

「お前は先ほどからしきりに私の顔と王の顔を見比べるように見ていた。
王が気づかなかったから良かったものの、さては私のことを言いつける積もりでおったのではないのか?」

すると別の女が言った。

「この者は、チェンダン様が手にかけた男のどちらかに懸想していたようです。
二人の死体を見て、密かに涙していましたから」

「ふん、やはりそうか。お前の命は今は奪うまい。
だが、口を利けぬように飲み物を進呈しよう。余計なことを喋られてはまずいからな。
字を読み書きできぬのは幸いだった。
皆の者もこの女から目を離すことがないようにな。」
「はい、チェンダンさま」

この事件はそれから起きる一連のできごとのほんの序曲であった。

しかし、ここで時間は遡って、ある山奥に舞台が変わる。 


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