やっぱすっきゃねん!VR-7
「ぐっ!」
一連の動きの中で支障が出ると修正は難しい。
直也は、バランスを欠いたままで右腕を振った。
力ないボールが真ん中にきた。バッターは、思い切りバットを振った。
キンッ!──
強い打球が三遊間に転がった。ショート秋川が横っ飛びでボールを止めたが、何処にも投げられなかった。
1アウト3塁、1塁。そして、打順はトップに返った。
「流れが悪いな」
「ええ。川口君も、調子自体は悪くないんですけど…」
永井と葛城が不安を漏らした。下位からの攻撃だったのが、ピンチを迎えてしまった。
「タイムを採って、落ち着かせますか?」
葛城が訊いた。
永井は考えた。試合中、守りのタイムは原則3回と決まっている。
すでに1回は使ってしまった。残りはこの回も含めて3イニング。
今の状況を鑑みると、この先、まだまだピンチが訪れるだろう。
「いや。ここは選手逹に任せましょう」
永井は、動向を見守ることとした。
「タイムお願いします」
一方、達也はマウンドに駆け寄った。あることを確認するために。
「足は大丈夫か?」
第一声に、直也は当惑する。てっきり、厳しく叱責されるとばかり思っていたからだ。
「…なんともないよ」
すっかり拍子抜けだ。毒気のない調子で答える。
すると達也は、とんでもないことを嘴った。
「1点覚悟で行くからな」
今度は別の意味で驚かされた。
「何でだ!?ダブルプレー狙うとか、前進守備がセオリーだろ」
直也の語気が、思わず荒くなる。
「あの俊足の1番じゃ、ダブルプレーは無理だ。確かに前進守備は正解だが、それは回が浅い場合だ。
終盤のピンチで怖いのは長打だろ。だから、ライン際の守備は締めて、長打を防ぐ必要があるんだよ」
達也の考えは道理を説いていた。直也は渋りながらも納得するしかなかった。
「じゃあ、頼んだぞ」
確認を終えた達也は、マウンドを下りると、野手に守備体系の指示を出す。
内野手は定位置より後ろで、ファーストとサードはベース寄り。外野手は定位置だ。
「バッターラップ!」
1番バッターが左打席に入った。廻ってきたチャンスを掴もうという気概が、周りから見ても分かる。