やっぱすっきゃねん!VR-4
「とりあえず、点は獲ったからな。そろそろ本気出せよ」
「なんだと…」
「終わったことをウジウジと考えてないで、試合に集中しろ」
達也はそれだけ言うと、直也に背を向けてベンチに引っ込んでいった。
「くそ…勝手なことほざきやがって」
言われるまでもない。直也自身、仲間の好守に支えられている事は分かっている。
いつも以上に高い闘争心で臨んだつもりが、妙に空回りを繰り返している自分に腹が立った。
そんな“負のオーラ”ともいうべき気負いが、周りにも悪い影響を与えていると、達也は言いたいのだろう。
ましてや、直也はチームのエースだ。
こんな、大会も大詰めを迎えているのに、落ち込んでもらっては困るのだ。
先制した青葉中は、まだチャンスの中にあった。
1アウト2塁となって、一ノ瀬は5球目を打ってファーストゴロだった。その間、2塁ランナーの加賀は3塁に進んだ。
次は8番の秋川。ここは追加点を期待したいところだが、前の2打席は凡退に終わっていた。
大谷西中の守備は、2アウトになって定位置に戻った。
(もうひとつやるか)
永井は、再びサインを送った。
その初球。キャッチャーは内角低めに構える。
ピッチャーは、ランナーの加賀を充分牽制してから投球動作に入った。
テイクバックから腕を振ろうとした瞬間、加賀はホームへダッシュを。秋川はバントの構えになった。
コンッ!──
秋川は、打球の行方も見ずに駆けだした。ボールはサード方向に転がった。
サードの反応がワンテンポ遅れた。秋川は1塁まで懸命に走る。
サードは、猛然とダッシュしてボールを素手で掴んだ。
余勢で前に流れそうになる身体を、スパイクで土を噛んで抑え込み、矢のようなボールをファーストに投げた。
秋川は減速することなく、1塁に飛び込んだ。ファーストが、身体をいっぱいに伸ばしてボールを捕った。
「セーフ!」
塁審のジャッジに、3塁側から喚呼が、1塁側から嘆声が鳴った。
まさに“もぎ獲った”という言葉が似合う2点目だった。
「佳代、相手ピッチャーの投球数は?」
永井が訊いた。
佳代は「待ってください」と言って、スコアブックに目を落とす。
「今ので、102球です」
「102球か……そろそろ限界だな」
永井は、9番の森尾にサインを送った。
サインを見た森尾は、意外という顔をしたが、すぐにヘルメットのつばを触って打席に入った。
ここで、大谷西中がタイムをとった。2点目を獲られた動揺を落ち着かせる為と、ピッチャーの疲労を見かねた配慮だった。
大谷西中のタイムは、主審から注意を受けるほど長かった。