やっぱすっきゃねん!VR-16
葛城は、プロテクターを着けて身構える。前に、一哉のボールを受けた時の衝撃を、身体が覚えていたからだ。
だが、一哉のボールは、前とは比較にならない物だった。
投球フォームに迫力がなく、何よりスピードが遅い。110キロも出てないだろう。
(何でこんな球を…?)
葛城の中に不可解さが漂う。永井の真意を、いまいち図りかねた。
「何で?こんな打ちごろのボールをって思われるでしょう」
そんな気持ちを読んだように、永井が言った。
「い、いえ。そんなことは…」
「構いませんよ。わたしも最初見た時、そう思いましたから」
「でも、これが沖浜中のピッチャー対策なんですよ」
「ええッ!」
その時、一哉の投げたボールが、葛城のミットからこぼれた。
──捕れなかった!
確かに、ミットの芯で捕ったはずなのに、ボールは芯の下に当たって外れた。
「目切りが早いと、捕れませんよ」
「す、すいません!」
一哉から注意がとんだ。葛城は慌ててボールを投げ返す。
それから葛城は、一哉のボールを捕るのに神経を集中させた。すると、何故、落球したのか解った。
(ベース直前で、小さく鋭く変化してる…)
戦慄のようなものを背中に感じた。初めて見た球種だった。
「藤野さん!」
葛城は、興奮気味に訊いた。
「このボールは…!?」
「カットボールですよ」
──カットボール!
球種を明かされて、葛城は唖然となった。
自分が現役の時には、こんなボールを受けたことは無い。
プロでも、限られたピッチャーしか物にしていない変化球。 それを今、目の当たりにしたのだ。
「これを、沖浜中のピッチャーは投げるんですか?」
信じられない。そんな口調だった。
「そうです。正確にはリカッターといって、シュートしながら落ちる球種です。
沖浜中のエースは、これを得意としています」
「そんな!、春先の練習試合では、そんなボール投げてなかったんですよッ」
葛城の顔に余裕がない。現実を突きつけられても、受け入れ難いといった口ぶりだ。
そこに、永井が割って入った。
「春先のエースは、2番手になってます。今は、2年生が背番号1を背負ってるんですよ」
「え……」
「もし、このボールを知らないまま決勝に臨んだら……そう思って、藤野さんにお願いしたんです」
すべてを明かされても、尚、葛城は不安を拭えない。