投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 509 やっぱすっきゃねん! 511 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VR-15

「それより、子供逹に食事を与えないと。朝食べたっきりでしょう」
「それはそうですが、今から買いに行くとなると…」

 永井の口調に苛立ちが見える。一刻も早く練習をやりたいようだ。

「そう思って人数分の軽食を買って来ました。わたしも準備に時間がかかりますから、その間に摂らせては如何です?」

 一哉の説諭、というか抜け目ない準備に、永井は従うしかなかった。
 サンドイッチにバナナ、それにスポーツドリンクという簡単な食事だが、選手逹は、ひと時の休息を楽しんだ。
 自ずと先ほどの試合が話題にのぼった。今はもう緊張はない。闘いを終えた安堵感が漂っていた。

 永井と葛城も、ご馳走になっていた。その間、一哉は1人、準備に取りかかった。
 軽く身体を動かした後、ランニングにかかった。焦がすような日差しと粘つく空気の中を、黙々と走りだした。

 ──なんか、違う。

 佳代は、その異様さに気づいた。
 いつもの一哉から感じる“不器用な優しさ”がない。代わって伝わってくるのは、氷のような冷たさだ。

(コーチ、どうしちゃったの?)

 佳代の頭に、漠然とした不安がよぎる。

「どうかしたのか?」

 すると、目ざとい仲間逹から声がかかった。

「ずっとグランド見て。そんなに藤野コーチが恋しいか?」

 直也が茶化した。
 佳代の顔が、みるみる険しくなった。

「ほんっとう!バカだねッ」
「おまえ!…ひとをバカ呼ばわり…」
「バーカ!バーカ!バーカ!」

 罵り合い──いつものことだ。周りも関わろうとしない。

 そしていつも、

「いい加減にせんか!」

 永井の注意で収束するのだが、その日は違った。先に一哉の怒声が飛んだ。

「食事を終えたら、さっさと準備を始めろ」

 冷たい口調に佳代だけでなく、達也や淳など、小学生の頃から一哉を知る者も異様さに気づいた。

「今日のコーチ、初めて会った頃みたいだな…」

 何者も寄せつけない雰囲気が漂っている。
 佳代は、只事でないと思った。

 食事を終えた選手逹は、一哉と入れ替わるように準備に取りかかった。

「葛城さん、お願い出来ますか?」

 一哉は、葛城とキャッチボールを始めた。
 じっくり時間をかける暇はない。選手の事を考えれば。

「じゃあ、マウンドに行きます」

 30球ほどでキャッチボールを切り上げ、ピッチング練習に移った。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 509 やっぱすっきゃねん! 511 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前