やっぱすっきゃねん!VR-14
「今日の予定だが、これから学校のグランドで、バッティング練習を行う」
──なんだって!
選手逹が、疑問の声を挙げた。
「監督ッ!」
達也が手を挙げた。
「なんだ?山下」
「いつもなら、対戦相手の試合を観るんじゃないですか?」
選手逹の総意なのだろう。皆が無言で頷いている。
しかし、永井は首を小さく横に振り「違うんだ」と言って続けた。
「今日の試合でヒットは6本。うち、内野安打が2本。連打は7回に2本だけ。
こんな調子じゃ、明日の決勝、やる前から結果は見えてる」
厳しい言葉。勝利の余韻にひたっていた選手逹に、いきなり冷水を浴びせたようなものだ。
「これから帰ってやるのは、明日の沖浜中との決勝を見越しての練習だ」
声が熄んだ。永井は、1人々の意識に、自分の想いがしみ渡るのを待った。
永井は思う。もし、ここで沖浜中の試合を観たら、明日、勝てる可能性は、限りなくゼロに近づくだろうと。
それほどに、今のままでは実力に差が有り過ぎる。
要らぬ先入観を極力排除し、準備させる事の方が得策だと想ったのだ。
「じゃあ、すぐに帰るぞ」
試合終了からわずか30分後。選手逹は、数台のクルマに分乗して球場を後にした。
シートに預けた身体が、振動をキャッチした。
(来たか…)
一哉は、シートから身を起こした。コンソールパネルの時計が、午後2時を示していた。
ここは、中学校の駐車場。一哉は1人、先に到着して永井逹の帰りを待っていた。
最初は、球場でおちあうつもりだったのだが、試合を観た途端、その考えは消え失せた。
──会ったら、自制が利かんかもしれん。
彼は、心を落ち着かせようと球場を離れた。そして、此処で気持ちを静めていた。
数台のクルマが、駐車場に停車した。次いで、わらわらと選手逹が降りてきた。
一哉もクルマを降りた。
「藤野さん!」
永井が一哉を見つけ、真っ先に走り寄ってきた。
「永井さん。決勝進出、おめでとうございます」
一哉は頭を下げる。サングラスは外さなかった。
「それで、練習の方をですね……」
早速、仕事にかかろうとする永井を一哉は制した。